
去る社員は追わない
後継者が、自分なりの戦略を打ち出したとき、先代が完全に引退したとき、複数の社員が同時に辞表を持ってくる時がある。この時後継者はどう考え、どう対処すれば良いのだろうか?中小企業において、経営方針の転換や、社内の仕組みを見直したとき、複数の社員が同時に辞表を持ってくることがある。確かに、そのようなことが起これば、大惨事だ。ついその後の事を考え、何とか社員を慰留することも多いだろう。
当社でもそのような事が起こった事がある。その時、辞表を持ってきた社員は、「私がいなくなったら、この会社は回らなくなりませんか。」と言い、私はとっさに「いいえ。何も変わらず回りますよ。」と反論した。私はそのことを一切後悔はしていない。
なぜならば、その社員を慰留したところで、会社が良くなるとは思えなかったからだ。
もちろん、当時は事務社員が全員同時に辞めることになったので、不安はあった。同業者の間では「アイツの会社はもうだめかもしれない。」という噂も出回ったそうだ。しかし、以下の4点を考え直す事ができた。
⑴採用の基準の抜本改正
⑵社員教育に関するマニュアル化の促進
⑶社員とのコミュニケーションの改善
⑷事務に関するオペレーションの改善
この出来事がなければ、未だに会社はうまく回っていなかっただろう。
どんな社員を残すべきか
私は辞めようとする社員を慰留しようとした事は今までで一度もない。慰留するか否かを決めるのは、以下の基準で考えられる。以下の図は、人材のマトリクスと呼ばれるものだ。
引き留めない社員は、②と④に属する社員だ。価値観の共有度が低く、仕事ができるのが④の社員。価値観の共有度が低く、仕事ができないのが②の社員だ。共通点は、価値観を共有できないメンバーであるという事だ。仕事の成果は教育でコントロールできる可能性(③)があるが、価値観に関しては教育では動かないものだからだ。
特に、④のような仕事ができる社員は、会社の利益に反する行為をする可能性があるため、注意が必要だ。そして、往々にして明確な理由が見えない退職希望者は、価値観の共有ができていないケースが多いものだ。
必要なのは後継者としての覚悟
いざ、複数の社員が辞表を持ってくるとうろたえることもあるだろう。劇的に売上が下がる事態に直面するかもしれないし、まだまだ退職者が相次ぐのではないかという心配もあるだろう。
しかし、ある企業は、40名ほどいた社員のうち半数近くが辞職したことがあったそうだ。その時残った社員たちは、死に物狂いで働き、社内の一体感はこれまでになかった程になり、結果60%もダウンした売り上げが、たった3年で元の水準に戻したそうだ。もとの半分の社員数で売上水準の回帰を実現したということは驚異的な事実だ。実際のところ、業種によっては本当に会社の存続を左右するような事になりかねない事であるため、安易なアドバイスはできないが、社員が複数人辞めていくときこそ後継者の覚悟が試されるタイミングなのではないだろうか。
【筆者プロフィール】田村 薫
自らの二代目経営者という立場における経験を社会に還元すべく、情報発信を行う。ブログ・ ワークショップの開催などを通じて経済の発展に寄与する後継者サポーター。
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