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事業を抱え込むのは経営者の「エゴ」である

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(写真=The 21 online/鷲見貴彦(ベンチャーバンク会長))

【連載 経営トップの挑戦】 第16回 〔株〕ベンチャーバンク代表取締役会長 鷲見貴彦

ベンチャーバンクは、『まんが喫茶ゲラゲラ』を皮切りに、ホットヨガスタジオ『LAVA』やバイクエクササイズの『FEELCYCLE』など、次々と新たな事業を生み出し続けて成長してきた企業だ。

自らを「インキュベーション・カンパニー」と位置づけ、軌道に乗った事業を分社化しているのが大きな特徴。しかも、子会社として分社化するわけではないという、独特のスタイルを取っている。創業経営者の鷲見貴彦氏は、なぜ1つの事業に満足せずに多角化を進め、しかも、せっかく成長した事業を分社化してきたのか? お話をうかがった。

人材育成で差をつけて、後発他社を寄せつけない

――ベンチャーバンクグループは数多くの事業を展開し、2010年度の94億円から2016年度の360億円(予測)へと、売上げを大きく伸ばしています。とくに大きく成長しているのは、どの事業でしょうか?

鷲見 フィットネス事業です。『LAVA』や『FEELCYCLE』、ダイエットのためのトレーニングジム『REAL FIT』、また2016年に始めたトランポリンフィットネスの『JUMP ONE』など、さまざまなブランドで展開しています。

ホットヨガスタジオ『LAVA』(写真=The 21 online)
ホットヨガスタジオ『LAVA』(写真=The 21 online)
バイクエクササイズ『FEELCYCLE』(写真=The 21 online)
バイクエクササイズ『FEELCYCLE』(写真=The 21 online)

――どういう人が利用しているのですか?

鷲見 20~30代の女性が多いですね。

――成長の理由はなんでしょうか?

鷲見 ブランドによって違うので一概には言えないのですが、共通しているのは、総合型のサービスを提供するのではなく、ブランドごとに専門化したサービスを提供していることです。

「総合型から専門型へ」という流れは、世の中全体で起こっていると思います。小売業で言えば、以前は、店に商品がたくさんあって、その中からお客様がほしいモノを選ぶ時代でした。でも、今のお客様はひと通りのモノを使ってみた経験があって、そのうえで、自分が気に入っているモノだけを買うようになっています。だから、いろいろなモノを売っている店よりも、自分が気に入っているモノだけを専門的に扱っている店のほうに魅力を感じる。

フィットネスクラブも同様で、これまではプールとジムとスタジオがそろった総合型が乱立していました。お客様はプールもジムもスタジオも万遍なく利用していたのです。しかし、総合型のフィットネスクラブだとスタジオは2つくらいしかありませんから、たとえばヨガが人気になっても、ヨガのレッスンは1日に3回くらいしかできません。すると、「ヨガをやりたい」というお客様にとっては魅力的ではなくなるわけです。そうなると、ヨガを専門にしているスタジオに軍配が上がりますよね。

――『LAVA』にしても『FEELCYCLE』にしても、他社に先行して市場に参入したことが勝因の1つであると、ご著書に書かれています。ただ、先行しても、後発の他社にキャッチアップされてしまう可能性はあります。そうならないために、どういうことをされているのでしょうか?

鷲見 後発が参入してくるのは、だいたい5年後です。この5年の間に、どれだけ先まで行くか、ということだと思います。

――5年間で市場を押さえてしまうということですか?

鷲見 それだけではなく、サービスのレベルやブランド価値など、すべてにおいて先に行くのです。

我々がホットヨガ市場に参入した2004年当時、ホットヨガの専門店は他にありませんでした。だから、私たちは他社から学ぶことができなかったわけで、初心者でした。でも、後発でホットヨガ市場に入ってきた会社も初心者です。初心者同士の競争では、5年先に始めているだけでも決定的に有利なのです。

――御社がその5年間で築いた、他社には真似できない部分とは、具体的にどこなのですか?

鷲見 人作りです。インストラクターをいかに短期間で育成し、多く輩出するか、という部分ですね。

当社には約1,500人のヨガのインストラクターがいます。それぞれが、たとえば100人ずつのお客様に教えられるとしたら、全部で約15万人のお客様に教えられることになります。ヨガの達人なら100人よりももっと多くの人に教えられるでしょうが、ヨガの達人は日本に何人もいません。他社がいくらヨガの達人を集めてきても、15万人には教えられないわけです。

――『LAVA』以外の事業についても同じ?

鷲見 同じです。たとえば、『FEELCYCLE』はこれまで日本になかったエクササイズですから、インストラクターは育てるしかありません。他社が「経験者募集」と広告を出したところで、経験者は当社にしかいないのです。

――短期間でインストラクターを育成するためのポイントはなんでしょうか?

鷲見 自分が提供しているサービスに対して意義を感じてもらうことです。「仕事だからやっている」ではなく、「このサービスでお客様を幸せにしたい」という動機づけができるかどうか。それにプラスして、もちろん、専門性を高めるための教育も行なっています。

――社員研修を頻繁に行なわれているということですが、そうした場で教育するのでしょうか?

鷲見 それもありますし、年に2回「称賛の場」というものを設けて、「そこで表彰されたい」と思ってもらうようにもしています。短期的な目標を設定することも重要です。

「称賛の場」というのは、事業ごとに全員が集まって、優秀者を表彰したりする場です。優秀な店舗のスタッフに海外研修の機会を与えたりもして、やる気を出してもらえるようにしています。

新規事業を生み出し続ける方法とは?

(写真=The 21 online)
(写真=The 21 online)

――御社の特徴として、軌道に乗った事業を分社化するということがあります。『LAVA』は〔株〕LAVA Internationalに、『FEELCYCLE』は〔株〕FEEL CONNECTIONに、『まんが喫茶ゲラゲラ』は〔株〕ソーエキサイトに、それぞれ独立しています。しかも、ベンチャーバンクの子会社という形ではないということですね。子会社化ではない分社化というのはイメージがつきにくいのですが……。

鷲見 それは、子会社化するのが当たり前だと思っているからですよね。なんのために子会社化するのか、考えたことはありますか?

――まず、連結決算の対象にして、親会社の売上げや利益を大きくするため、ということがあるかと思います。

鷲見 つまり、別会社にしたほうが自由に動けるので分社化するのだけれども、支配下には置くということですよね。それって支配欲じゃないですか。経営者のエゴだと思いますよ。

ある調子の良い事業があるとしましょう。その事業をしている社員は、自分たちだけで事業を続けるのと、相性が良くてシナジー効果が発揮できる他社と一緒に仕事をするのと、どちらを喜ぶか? それは後者でしょう。でも、経営者のエゴで支配下に置いていると、他の事業会社と提携したり、場合によっては売却したりしたほうがその事業が拡大するとわかっていても、手放すことができません。つまり、社員の幸せにならないわけです。我々の基本路線は、軌道に乗った事業を分社化して、相性の良い他の事業会社と提携をして、さらに自由に発展させていくことなのです。

――子会社にしないということは、分社化したグループ会社への出資は誰がして、誰が株主になっているのですか?

鷲見 ベンチャーバンクが出資すると子会社になってしまうので、私個人です。

――ベンチャーバンクから分かれたグループ会社の経営判断は、ベンチャーバンクからまったく影響を受けない?

鷲見 そうです。ベンチャーバンクはインキュベーションに特化しています。つまり、新しい事業を見つけ出し、いち早く軌道に乗せるところまでが、ベンチャーバンクの機能です。

――人事交流はあるのでしょうか?

鷲見 総合職については、教育のために、ローテーションでグループ各社を経験してもらっています。現場でサービスを提供する専門職については、募集をかけて、希望があれば異動してもらうこともあります。

――せっかく軌道に乗った事業を手放すということは、売上げや利益を追求することがビジネスの目的ではないということでしょうか?

鷲見 経営ですから、当然、会社の規模や売上げは追いかけます。また、ビジネスをしていて赤字を出すのは犯罪のようなものだと思います。犯罪というか、意義がない。利益が出るということは、お客様に「良いサービスだ」と支持されていることの証明ですから。

ですから売上げや利益を出すための工夫はしますが、それはあくまで手段だということです。手段を目的化してはいけません。目的は、社員をどれだけ幸せにできるか、社員がお客様や社会にどれだけプラスの影響を与えられるか、ということです。

――事業を抱え込まないというのは、非常にユニークな経営観だと思います。その考え方はどこで身につけられたのでしょうか?

鷲見 ヨガの哲学から学びました。

ホットヨガの事業を始めたときは、ただビジネスの1つだと捉えていたんです。ところが、インストラクターの採用面接をしていると、会員の方が「ヨガで人生が変わった。だから、インストラクターになって、今度は人生を変える側になりたい」と大勢いらっしゃった。それで、「ヨガってすごいんだな」と思って、自分で瞑想をしたり、合宿に参加したり、ヨガの哲学を学んだりしました。そして、ヨガの哲学をビジネスに融合させることを考えるようになりました。

ヨガというと、ポーズを取って身体を柔らかくするものだと思っている人もいるのですが、全然そういうものではありません。基本的には哲学です。ポーズを取るのは「動く瞑想」と呼ばれています。

――ベンチャーバンクは新規事業を生み出し続ける会社だということですが、これはかなり難しいことだと思います。どのようにして実現しているのでしょうか?

鷲見 当初は苦労しましたが、今では次々と生み出せるようになりました。美容・健康の分野に絞り込んだからです。それ以外の事業もチャンスがあればやりますし、教育分野にも参入していますが、1つの分野の中で多方面に展開するほうが効率的です。

ちょうど今、新規で立ち上げている事業も、成功したフィットネス事業を別の形にアレンジしたものです。柳の下にドジョウは1匹じゃなくて、5匹も6匹もいるのです。

――ご著書には会員制ビジネスに注力しているとも書かれています。

鷲見 テクニック的にはそうですね。勝ちパターンです。

会員制ビジネスは、歴史的に見ると最近のものなのです。会員制にしたほうがいいのに、まだ都度払いのままのビジネスは数多い。だから、会員制に変えるだけで新業態が生まれます。

とくに、フィットネスやマッサージのように、お客様にとって続けたほうがいいサービスは、都度払いよりも会員制のほうが、定期的に通うモチベーションが高まるので適しています。ビジネスとしても、生涯客単価が高くなります。

――美容・健康分野のビジネスと会員制とは相性が良いということですね。

鷲見 そうです。当社の事業はすべて会員制です。

――新規事業がうまくいくかどうかの判断は、どれくらいでされるのですか?

鷲見 事業によって違います。また、同じ事業でも、担当者によって業績が上向いたり、そうでなかったりということもありますから、「今の数字が赤字だからやめる」という判断はしません。適任者が現われるまで辛抱強く待つこともあります。逆に、黒字であっても、当社がやることに意義が見出せなくなったら、続けません。

――新規事業の担当者は、どのように決めているのですか? やりたい人が手を挙げて?

鷲見 挙手のこともりますし、指名のこともあります。

基準としては、1つは、どこかで成果を上げたことのある人。成果が出せない人は、どこに行っても成果を出せないのです。小さな組織においてでも成果を出したことのある人は、別の事業でも成果を出せます。

――若い人に任せることも?

鷲見 あります。ただ、当社のサービスは現場で人をマネジメントしないとできないものなので、人をマネジメントできることは最低限必要です。軋轢を生む人や、頭が良くても人に嫌われるようだとうまくいきません。

経営理念の見直しで業績が伸びた!

――創業の経緯についてもお聞きしたいと思います。船井総研に勤めながら、自分で事業を興そうと思われた理由はなんだったのでしょうか?

鷲見 コンサルタントの仕事に向かなかったんですよ。経営者と何時間も話を合わせるのがストレスでしかありませんでした(笑)。自分で事業をするほうが性に合っているんです。

――立て続けに4度も事業に失敗して、ようやく成功したのが『まんが喫茶ゲラゲラ』です。しかし、まんが喫茶事業だけに満足することなく、次々と新規事業を手がけてこられた。なぜなのでしょうか?

鷲見 まんが喫茶が本当にやりたい事業ではなかったからです。当初は自分にビジネスの力がなかったので、そんな自分でも成功させられる事業を探していました。やりたいかどうかではなく、成功できるかどうかを考えていたのです。『まんが喫茶ゲラゲラ』の経営が安定してきてから、それは適任者に任せ、本来、自分が興味・関心のあるビジネスにシフトしていきました。

――『まんが喫茶ゲラゲラ』を成功させたことで、他の事業も成功させられる自信がついた?

鷲見 それはなかったですね。ゼロからの起業と同じです。

――事業を成功させるコツがつかめたのは、いつ頃ですか?

鷲見 2010年頃、経営理念について改めて考え直してからです。

当社は当初から多角経営を目指していました。それが若い人たちに魅力的に映るだろうと思っていましたし、「他社との差別化になる」「経営者としても面白い」と思っていたからです。でも、多角化することが世の中に対してどういう意味を持つのかという本質的な部分をあまり考えていませんでした。その部分を考えさせられたのが、ヨガの哲学と出会ったことであり、2009年に役員全員を解任した出来事です。役員たちの目的意識がバラバラになり、一部の役員は会社の私物化や不正までする事態になったので、全役員を解任し、私が1人役員になったことがあるのです。このときに「どんな会社にしたいのか」を改めて考え直しました。

経営理念が固まると、それをもとに人作りができます。先ほどお話ししたように、人作りは当社の一番の強み。それが、このときにできたわけです。

ビジネスですから、当然、精神論だけではなく、テクニックも重要です。でも、それはそれほど難しいことではありません。テクニックは他社も簡単に真似できます。真似ができないのは、人作りや組織・風土作りです。

――御社の経営理念は、「好き!を仕事に、人生をワクワク生きよう。そして、自分自身と、関わるすべての人を幸せにしよう。」です。

鷲見 要するに、世の中にギブしようということですね。お客様が喜ぶ、感動する、また、お客様の人生が変わるサービスをギブする。素晴らしいものをギブすればリターンがあります。そのリターンで人を採用し、教育して、またサービスをギブする。この繰り返しです。

――〔株〕iGENEという教育事業の会社を設立したのは、このサイクルの一環である「教育」を強化するためですか?

鷲見 自画自賛になりますが、非常に完成度の高い教育プログラムを開発したのです。はじめは門外不出にしてグループ内で使おうと思ったのですが、世の中に出して、このプログラムに価値を感じていただける方々に提供したほうがいいと考え直し、iGENEを分社化しました。いろいろな業種の方に教育プログラムを使っていただいて、バリエーションを増やし、さらにレベルを上げていきたいと思っています。

――経営理念を考え直したとき、意識した経営者はいましたか?

鷲見 とくにいません。というのも、ヨガの哲学をベースに事業の成長を考えている、私と同じ発想の経営者に出会ったことがないのです。ヨガの哲学とビジネスをどう融合させるかが、今の私のテーマです。

2005年に『僕の会社に来なさい』という本を出した当時は、邱永漢さんをベンチマークにしていました。邱永漢さんは、ビジネスホテルを経営して成功させると、同じビジネスを続けてホテル王を目指すのではなく、手放して次の事業を始めました。次々と新しい事業を成功させることに生きがいを感じるという部分が自分に似ていると思ったのです。

さらに前の船井総研にいたときには、船井幸雄さんに影響を受けました。船井さんは「プラス発想」「過去オール善」「感謝」「世のため人のために尽くそう」など素晴らしい考え方に溢れていて、常に意識していました。ただ、「具体的に何をすればいいの?」ということが当時の私にはわかりませんでした。だから、船井幸雄さんが言う目指すべき人間像に自分が近づいている感覚が持てませんでした。今、私は、なりたい自分になるためにやるべきことは瞑想が一番だと思っているので、社員や多くの人に「瞑想をしてください」と伝えています。

実際に瞑想の効果を実感した人が、私の周りにはたくさんいます。瞑想を通じて人生を大きく変えているのです。自信をもって瞑想をお勧めします(笑)。

――最後に、今後の目標があればお教えください。

鷲見 会社を大きくしたいとは思っていますが、金額としていくらといった目標はありません。それよりも、どうしたら経営理念を社員により深く理解してもらえるのかという、効率的な「伝え方」の追求をしたいと思っています。研修だけではなく、日々の運営の中で社員に気づきを与えられる仕組みを開発したいですね。

他に類を見ないユニークな経営者

中国哲学や宗教など、古代からの智慧を経営に活かしている経営者は多くいるが、ヨガの哲学をベースにしている経営者は数少ないだろう。しかも、新規事業を生み続けては、軌道に乗ったら分社化し、最終的にはシナジー効果を発揮できる他の事業会社と提携をしてさらなる発展を目指すという、ユニークなビジネスモデルを実践している。あまりに常識から外れているので、話を聞いても戸惑う人も多いかもしれない。

しかし、「会社はなんのために存在するのか」という部分に注目すれば、違和感なく受け入れられるのではないだろうか。その考え方を実現する手法が、鷲見氏の場合、他に類を見ないものだということだろう。会社やビジネスの意義について改めて考えさせられ、自分の持っている常識を揺さぶられる取材だった。

鷲見貴彦(すみ・たかひこ)〔株〕ベンチャーバンク代表取締役会長
1959年生まれ。岐阜大学教育学部卒業後、名古屋の出版社に入社し、コンピュータ部門に配属。89年、〔株〕船井総合研究所に転職し、経営コンサルタントとして数々の実績を残す。 90年にベンチャーバンクの前身となる〔有〕トータルアクセスカンパニーを設立。94 年に〔株〕船井総合研究所を退社。その後さまざまな新規事業を立ち上げ、2005 年、〔株〕ベンチャーバンクを設立。インキュベーション・カンパニーとして、『LAVA』『FEELCYCLE』『まんが喫茶ゲラゲラ』『養蜂堂』『ゆずりは』『ファーストシップ』『REAL FIT』『Re:Bone』『mana Labo』『泰氣堂』『DanjoBi』『プラチナボディ』『天空の庭 天馬夢』『JUMP ONE』などの事業を創出する。著書に『i人経営 瞑想から生まれた新ビジネスモデル』(日経BP コンサルティング)、『僕の会社にもっと来なさい』(マガジンハウス)などがある。(人物写真撮影:池田真理)(『The 21 online』2017年1月号より)

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