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日本一のチームを作り上げた「指導をしない」マネジメント

栗山英樹,北海道日本ハムファイターズ,チームマネジメント
(写真=The 21 online/栗山英樹(北海道日本ハムファイターズ監督))

「教える」よりも「見る」を大事に

プロ野球・北海道日本ハムファイターズの監督就任から5年。若手中心のメンバーを育て上げ、ついに日本一へと導いた、そのチームマネジメントの手腕は、ビジネスマンにとって大いに参考になる。一人ひとりの力をいかに引き出せばいいのか、組織をどうまとめ、強化していくべきなのか、お話をうかがった。

「何が選手のためか」考え、あえて過酷な決断も

北海道日本ハムファイターズの監督に就任した1年目にリーグ優勝。以来、常に優勝争いに絡めるチームを作り上げ、就任5年目の昨年には、ついにチームを日本一に導いた栗山英樹監督。大谷翔平選手や中田翔選手を、球界を代表する選手に育て上げた手腕も評価されている。栗山氏はいつも、何を一番大切にしながら、チーム作りを行なっているのだろうか。

「僕が監督として一番に考えるのは『どうすればこの選手を輝かせることができるのか』『何がこの選手のためになるのか』ということです。親のように選手の可能性を信じ、将来を見据えたうえで今ベストな選択を考えるのです。選手からどう思われているかはわかりませんが、この信念は新人監督だったときから変わりません。

とはいえ『本当にその選手のためになることを行なう』というのは、実際にはすごく難しいことです。うちのチームに、西川遥輝(にしかわはるき)という選手がいます。2014年のシーズン終盤、2年連続で盗塁王を狙えるチャンスがあった時期に、彼を2軍に落としたことがありました。それが彼のためになると思ったからです。

長打力もあれば流し打ちもできるという優れたバッティングセンスの持ち主である彼は、その器用さゆえに、自分のスタイルを定めることができず、打撃成績が低迷していました。このまま中途半端な状態で盗塁王を取らせるよりは、一度どん底を経験させることで、悔しさの中からもっとがむしゃらに自分と向き合う機会を与えようと思ったのです。

そのときの決断は本当に悩みました。もちろんシーズンの個人成績も大切です。でも最終的に『将来のことを考えたら、そのほうが遥輝のためになるはずだ』と考え、決断したのです。

その経験もあってか、今の遥輝は自分のかたちを見つけつつあります。だから昨年の日本シリーズでサヨナラ満塁ホームランを打ったときはすごくうれしかった。あの試合の勝利監督インタビューで、目がうるっときていたのはそのためです」

監督はリーダーではなく「マネージャー」

「本当にこの選手のためになることはなんだろうか」を常に考え、時には厳しい決断を下す栗山監督。ただしそれには、リスクが伴うこともあるはずだ。たとえばいくら監督が、その選手のことを思って2軍行きを命じたとしても、選手のほうはそれですっかり自信を喪失し、潰れてしまうかもしれない。

「そうですね。だからこそ一人ひとりの選手の性格や、心身の状態を把握しておくことが大切になります。僕は選手に技術的な指導はほとんどしません。選手のちょっとしたしぐさや表情、練習中の態度などをひたすら見ています。

そして選手の性格や精神状態を踏まえたうえで、どんな態度で接するか、言葉がけをするかを考えます。人によって、褒めたほうがいい、叱ったほうがいいなど違いがあるうえ、同じ人でも立場や状況によっても変わってきます。一概に、どうすることが正解というのがないので、よく見ることが大切なのです。

僕は『教える』という感覚はあまりなく、選手が持つ良さを引き出し、適材適所で輝くようにマネジメントをしているだけです。引っ張っていくリーダーというよりは、マネージャーのような役割が近いかもしれません。

もう一つ心がけているのは、『自分の考えが正しい』とは絶対に思わないことです。『これがその選手のためになる』と思ったとしても、もしかしたらその考えは監督の独り善がりかもしれません。そうして他人の意見にも素直に耳を傾け、そのうえで『これで本当にいいのだろうか』と、自分自身に深く問いかけてから結論を出すようにしています」

優勝したからこそあえてチームを「崩す」

日本ハムは選手の入れ替わりが激しいチームだ。栗山監督が就任してから5年の間にも、顔ぶれは大きく変わった。主力が抜けると低迷するチームが多い中で、常に好成績を収め続けている理由はなんだろうか。

「チームとして結果を残し続けるためには、常に選手を入れ替えながら、若手選手を育てていくことが求められます。とくに優勝した翌年はそれを意識します。安定した組織は良いけれど、その状態に慣れてしまうと成長がありません。キープしようと思っても面白みがないですし、勝ったときこそ次のプラスアルファを生み出さないといけない。

『チームを崩す』ことによって、これまでは出場機会に恵まれなかった選手たちは『今度はチャンスがあるかもしれない』と頑張ることができますし、出場していた選手たちには緊張感が生まれ、『次も絶対ではない』と努力し続けるようになり、結果的に個々の能力が高まる。個人もチームも進化し続けないと意味がないですからね。

でも、それができるのは、やはり選手をはじめ、フロントやコーチ陣などとの信頼感があるからだと思います。プロ野球において、打率とか打点とか防御率とか……もちろん個人の数字は大切です。でも、それを一番にしていたら強いチームは作れない。勝てるチームを作るために何をしたらいいのか考え、皆が同じ方向を向いて動くことが、継続的に強いチームを作るのだと思います」

外国人選手にはあえて「日本風の英語」を!?

栗山監督というと、熱血漢でフレンドリーというイメージがある。選手との普段のコミュニケーションは、どのように取っているのだろうか。

「実は選手とは普段あまり話さないんです。どちらかというと見る専門で(笑)。ただ、ここぞというときには、きちんと場を設けて真剣に話し合います。

ただし監督として結論を言うことはありません。悩みや葛藤の原因や解決方法は、選手自身で気づかないと人間的な成長はないからです。監督としてやるべきことは、想いを伝えたうえで、自分自身で気づき、考え、行動できる選手になってもらうために方向性を示してあげることです。

そういう意味で監督は選手の『気づかせ屋』だと思っています。選手をよく見ていれば、その選手が進もうとしている道が見えてきます。でもその道が、正しい道とは限りません。たとえば、タイプ的にホームランバッターではないのに、ホームランに憧れて長打力を磨こうとする選手がいます。でも『違う道のほうが、彼は輝くことができる』と判断したときには、その道を示し、気づかせてあげるようにしています。そして、本人がそれに気づくのを待ってあげることも監督としての大切な仕事です。

ちなみに、外国人選手に対しては、日本語のような発音の英語で、積極的に話しかけるようにしています。僕は以前、大リーグでプレーしている日本人選手を取材したときに、言葉も文化も違う環境で暮らすことの大変さを痛感しました。だから外国人選手には、できるかぎり野球がやりやすい環境を整えてあげたいのです。

実は、わざと下手な英語を使うのには意味があります。そうすることで、一生懸命さが伝わり、相手は聴き取ろうと真剣に話を聞いてくれるからです。気持ちや熱意は、ちょっとした工夫でより伝わると思います」

栗山英樹(くりやま・ひでき)北海道日本ハムファイターズ監督
1961年、東京都生まれ。東京学芸大学を卒業後、84年に内野手としてヤクルト・スワローズに入団。1年目で一軍デビューを果たし、88年には、3割3分1厘と活躍。89年にはゴールデングラブ賞を獲得。90年の引退後はスポーツジャーナリストとして幅広く活躍。2012年、北海道日本ハムファイターズの監督に就任し、1年目にしてリーグ優勝を果たす。16年、11.5ゲーム差を逆転し、4年ぶりにリーグ優勝。日本シリーズも逆転優勝した。著書に、『未徹在』(ベストセラーズ)など。(取材・構成:長谷川敦 写真撮影:まるやゆういち)(『The 21 online』2017年2月号より)

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