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良いものを知ってこそ、良い作品ができる

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(写真=The 21 online/刀鍛冶 吉原義一)

一流の職人に学ぶ「仕事の流儀」第2回 刀鍛冶 吉原義一

職人の仕事を通じ、仕事で大切なことを学ぶ本連載。第2回目は、史上最年少で「無鑑査」の称号を手にした、刀鍛冶・吉原義一氏にお話をうかがった。

刀鍛冶以外の職業は考えられなかった

現在、日本には250~300人の刀鍛冶がいるが、日本刀の製作だけで生計を立てているのは30人弱。その中でトップクラスの実力を誇るのが、吉原家の四代目刀鍛冶、義一氏だ。

「曾祖父が昭和の初めの頃に刀鍛冶を始めました。敗戦後、GHQの政策で日本刀が作れなくなり、一時的に鉄工所へ転業しましたが、それでも曾祖父は鉄工所の片すみで日本刀を作っていたようです。昭和27年頃になってようやく日本刀の製作を再開することができ、現在に至ります」

義一氏の父である義人(よしんど)氏も、日本を代表する刀鍛冶だ。メトロポリタン美術館を始めとした海外の美術館にも数多くの作品が収蔵されているという。また、義一氏の叔父も刀剣界の重鎮。映画『ラストサムライ』に刀鍛冶役で出演したこともあるそうだ。

「このような環境ですから、刀鍛冶になるのはごく自然なことでした。他の道に進もうと思ったこともありません。18歳で父に弟子入りをし、5年後に正式に刀鍛冶になりました」

刀鍛冶になるには、最低でも5年かかるのだという。4年間修行をした後、5年目で文化庁の試験を受ける資格が得られ、それに合格した者だけが刀鍛冶を名乗ることができる。

「一般に刀鍛冶の修行は、仕事を見て一連の流れを覚え、ホド(炉)を熱するための炭を切るところから始まります。ですが、私は子供の頃から親の仕事を見て覚えていたので、いきなり鍛錬※から始めることができました。だからこそ、最短の5年で刀鍛冶になることができました」

※鍛錬とは、日本刀を作る作業工程の1つ。日本刀の原料である玉鋼(写真)をホドで熱し、原料を叩いて薄く打ち延ばし、折り返して重ねていく。15回ほど折り返すことでおよそ3万の層ができ、強靭な日本刀へと仕上がっていく。

日本刀の原料である「玉鋼」。希少価値が高いため、一振りを作り損ねるだけでも、多額の損失に。それでも義一氏は、「失敗しなければ、仕事は覚えられない」と弟子に製作の機会を多く与えている。(写真=The 21 online)
日本刀の原料である「玉鋼」。希少価値が高いため、一振りを作り損ねるだけでも、多額の損失に。それでも義一氏は、「失敗しなければ、仕事は覚えられない」と弟子に製作の機会を多く与えている。(写真=The 21 online)

良いものを見て作品の「違和感」に気づく

よい日本刀は、美しさだけでなく、よく切れることも大切。切れ味を確かめるために、以前は畳で試し切りすることもあったという。(写真=The 21 online)
よい日本刀は、美しさだけでなく、よく切れることも大切。切れ味を確かめるために、以前は畳で試し切りすることもあったという。(写真=The 21 online)

 

比較的スムーズに刀鍛冶になることができた義一氏だが、「独立してからが本当の修業だった」と振り返る。

「5年の修業を終えたくらいで、本当に良い作品を作ることなど到底できません。刀を作り続けるのはもちろんですが、何より良い作品を見ることが重要。良い作品を見て理想的なイメージを目に焼きつけて初めて、自分の刀の微妙な曲りやねじれなど、ちょっとした違和感に気づくことができる。良いものがわからないと、良い作品は作れません。そのため、日本刀の鑑賞会には欠かさず通うようにしていました」

刀鍛冶になってから13年後、義一氏は新作刀展覧会に審査なしで出品できる「無鑑査」という称号に最年少で認定された。「無鑑査」の称号を持つ刀鍛冶は全国で16~7人。平均して50歳過ぎだという。それを36歳の若さで手にしたのだ。

「でも、34歳の時点で『無鑑査』を取る資格は得ていたのですが、『若すぎるから』という理由で36歳まで見送られてしまったのです(笑)」

良い仕事は「速さ」から生まれる

義一氏が相槌を打ち(拍子を取り)、弟子たちが鍛えていく。(写真=The 21 online)
義一氏が相槌を打ち(拍子を取り)、弟子たちが鍛えていく。(写真=The 21 online)

 

職人というと、とことん時間をかけて作品の完成度を追求していくものと考えられがちだ。だが義一氏はそれを否定する。

「仕事に時間をかければ作品のクオリティが上がるわけではありません。日本刀の世界では、鍛錬に時間をかけるほど、鉄も炭も燃え尽きて減っていってしまう。早い仕事ほど、良い仕事と言えるでしょう」

だが、「良い仕事」で満足してしまっては、「良い作品」にまで高めることはできないという。

「良い仕事は熟練度が高まれば自然とできるものですが、良い作品を作るにはセンスが必要です。だからこそ多くの日本刀を見ることも大事ですが、そのほかにもあらゆる分野に興味を持つことが大切。私もクルマやロードバイクなど、さまざまな趣味を楽しんでいます。

作品には人間性が現われるので、さまざまな経験をするほど、仕事に深みが出てくるのです」

良い仕事をするために、本業以外のことも大切にしていきたいものだ。

吉原義一(よしわらよしかず)刀鍛冶
1967年、東京都生まれ。85年、父である義人のもとで修業を開始し、5年後に文化庁認定刀匠となる。その後、高松宮賞、文化庁長官賞など数々の特賞を総なめにし、36歳で審査なしで展覧会へ出品できる「無鑑査」に認定された。(写真撮影:まるやゆういち)(『The 21 online』2017年1月号より)

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