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世に必要とされるから伝統は生き残る

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(写真=The 21 online)

一流の職人に学ぶ「仕事の流儀」第3回 江戸小紋職人 小宮康正

職人の仕事を通じ、仕事で大切なことを学ぶ本連載。第3回目は、江戸の伝統的な紋様を染め上げ、着物生地を作る、小宮康正氏にお話をうかがった。

(写真=The 21 online)
(写真=The 21 online)

お話をうかがった小宮康正氏。現在、康正氏は作品の最終チェックを担当しているため、冒頭の写真の作業「型付け」は、息子の康義氏が行なっている。

「伝統」とは「最先端」のことでもある

小宮染色工場は、100年の歴史を誇る江戸小紋の名門だ。初代・康助氏が明治40年に25歳で独立し、浅草で小紋屋を開業。その後、新小岩へと移り、2代目・康孝氏を経て、現在は康正氏が3代目を務めている。

江戸小紋の職人の家系に生まれ、子供のころから職人を志すのが当然だと考えていた康正氏。他の道に進むことは考えたこともないという。

「祖父、父ともに重要無形文化財保持者、つまり人間国宝なのですが、人間国宝の役割は、技術保持者として形のない技術を次世代へ伝えていくこと。そんな父から技術を継承するのはごく自然な流れでした」

康正氏は、中学を卒業後の昭和47年、15歳で修業を開始。父である康孝氏に師事した。その後、24歳で日本伝統工芸展に初入選し、紫綬褒章を受賞し現在に至っている。今では康正氏もまた、「技術の継承」を強く意識しているという。

「今までは技術を受け継ぎ、技を磨くことに集中すれば良かったのですが、今では私も祖父や父と同じく、息子たちへ技術を伝える立場にあります。先代からの技術を受け取るだけでなく、自分で生み出した技術をそこに積み重ね、次代へ伝えていかなければなりません。それを止めてしまえば、あっという間に過去の遺産になってしまうのが、『伝統』というものだからです」

では、そのために最も重要なことは何か。康正氏は、『技術を解明すること』だと指摘する。

「伝統とは、長年にわたって技術の改良を積み重ねてきた集大成のこと。いわば、改良に改良を繰り返した『最先端』なのです。職人の世界ではよく『見て覚えろ』と言われますが、初心者が見るだけで最先端の技術の本質を理解するのは至難の業ですし、習得に時間もかかります。

一方、その技術の仕組みや『なぜそれを行なうのか』の理由を頭で理解することができれば、より短時間で習得できる。だからこそ教える側は、技術の一つひとつについて、『なぜそれを行なうのか』を言葉にして伝えられなければならないのです。

たとえば、生地の上に型紙を置き、ヘラを使って防染糊を塗っていく『型付け』という作業があります。その際、ヘラの柄を握るのではなく、指でつまむようにします。その理由は、つまんだ際の指が支点となることでヘラの刃が返りやすくなり、防染糊をムラなく塗ることができるから。こうした理由を伝えることで、伝統をより速く習得してもらえます」

技術は感覚的なものが多く、言葉にして伝えるのは難しい。しかし、その作業を怠れば、伝統はすぐに廃れていってしまうという。

ヘラの使い方を解説してくれた康正氏。説明が解りやすく、職人でない筆者でも理解できた。(写真=The 21 online)
ヘラの使い方を解説してくれた康正氏。説明が解りやすく、職人でない筆者でも理解できた。(写真=The 21 online)

世に必要とされるから伝統は生き残る

「型付け」は、型と型の継ぎ目を合わせる瞬間が、一番緊張するのだという。(写真=The 21 online)
「型付け」は、型と型の継ぎ目を合わせる瞬間が、一番緊張するのだという。(写真=The 21 online)

 

伝統が生き残るためには、もう一つ大切な視点があるという。

「それは『世に必要とされなければならない』ということです。

今でこそ着物はハレの日などに着る特別な装いですが、かつては普段着でした。しかし、洋服が浸透してきたことで、徐々に需要が減少し、今に至っています。

つまり、消費者が生活の中で着物の用途を見出せなくなっているのです。それを仕方のないことと諦めてしまっては、需要はいずれなくなってしまう。『今の時代に生きる人々のために、何を作ることができるのか』を常に考えなくては、伝統は廃れてしまうでしょう」

伝統を引き継ぎ、そこに新たな技術を付け加えていくという考え方は、あらゆる仕事に共通するのではないかと康正氏は指摘する。

「どんな業界の仕事も、それぞれの業界の伝統に支えられ、成り立っています。ただ、そこに胡坐をかいていては、いずれ世の中から必要とされなくなってしまう。業界の伝統を受け継ぎつつ、新たなニーズを開拓する。その両方の姿勢こそが必要なのではないでしょうか」

「完成した生地。小宮家では、多くの型紙を所持しているため、さまざまな紋様の生地を作ることができる。(写真=The 21 online)
「完成した生地。小宮家では、多くの型紙を所持しているため、さまざまな紋様の生地を作ることができる。(写真=The 21 online)

 

小宮康正(こみや・やすまさ)江戸小紋職人
1956年生まれ。中学卒業後、父である康孝氏に伝統工芸である江戸小紋の創作を師事。24歳で日本伝統工芸展に初入選し、2010年には紫綬褒章を受賞した。現在は息子2人を指導し、江戸小紋の総仕上げを担当する。(写真撮影:まるやゆういち)(『The 21 online』2017年3月号より)

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