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「耳の痛いこと」を伝えて部下と職場を立て直す技術

中原淳,人材育成法,フィードバック
(写真=The 21 online)

まったく新しい人材育成法「フィードバック」とは何か?

年上の部下、育たない若手……多様化する職場の人材に対応できず、部下育成がおろそかになっている現代のマネジャーたち。何とかしなければという焦りはありつつも、自らもプレイングマネジャーとして実績を求められ、部下を指導している時間がない……。

そんなマネジャーの悩みを解決する、日本の企業ではあまり知られていない人材育成法、その名は「フィードバック」――そう主張するのは、人材開発の研究に長年携わってきた東京大学准教授の中原淳氏。新著『フィードバック入門――耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術』を発刊した中原氏に、そんな「フィードバック」の背景・基礎理論から、実践的ノウハウにいたるまで話をうかがった。

「情報通知」と「立て直し」が不可欠

フィードバック」は、あまたある部下育成手法の中で最も重要なものにもかかわらず、日本ではあまりこれまで注目されてこなかったものだと思います。

フィードバックとは端的に言ってしまえば、「耳の痛いことを部下にしっかりと伝え、彼らの成長を立て直すこと」です。

より具体的には、フィードバックは、次の2つの働きかけを通して、問題を抱えた部下や、能力・成果のあがらない部下の成長を促進することをめざします。

1.【情報通知】
たとえ耳の痛いことであっても、部下のパフォーマンス等に対して情報や結果をちゃんと通知すること(現状を把握し、向き合うことの支援)

2.【立て直し】
部下が自己のパフォーマンス等を認識し、自らの業務や行動を振り返り、今後の行動計画をたてる支援を行うこと(振り返りと、アクションプランづくりの支援)

「成果のあがらない部下に耳の痛いことを伝えて、仕事を立て直すこと」は、非常に現代的なテーマでありながら、これまであまり触れられてきませんでした。書店に行っても、フィードバックという言葉を含む類書は非常に少ないと思います。

なぜ今、日本の職場にフィードバックが求められているのか?

私が、なぜ今、フィードバックについて語らなければならないと思いたったのか。ここでは5つの理由を述べさせていただきましょう。

まず第1の理由は、企業の現場において、フィードバックのニーズが非常に高まっているからです。

最近、「部下育成がうまくいかない」「経験の浅い部下がなかなか育たない」といった声を、あちこちの企業で聞くようになりました。成果のあがらない部下をどのように立て直していくかというニーズは、一個人の問題を越えて組織全体の問題として、あるいは日本全体を覆い尽くす問題として、近年非常に高まってきています。

第2の理由としては、「年上の部下」に代表される、職場の多様な人材に悩まされているマネジャーが増えているということが挙げられます。

近年、一定の年齢に達したら役職を剥奪される「役職定年」や、「定年退職者の再雇用」などによって、年配の元部長や元次長が肩書きのない一般社員に戻るケースが増えています。彼らに対峙するのは、10歳以上も年下のマネジャーです。そうした人たちの間で、元部長などに対して、なかなか言いたいことが言えない、耳の痛いことをきちんと伝えられない、という「年上に意見できない症候群」が蔓延しています。

第3の理由は、ハラスメントに対する意識が職場で過剰に高まったことが挙げられます。

昨今、パワハラやセクハラなどのハラスメントに対する意識が強まり、世の中がフィードバック不足になっています。「部下を傷つけるかもしれないことを、どこまで言っていいのか」「耳の痛いことを言ったとき、どこまでなら問題にならないか」……。そうした懸念は、どの企業のマネジャーにも広がっています。

第4の理由は、2000年代に広まったコーチングなどの「気づき」を重視する部下育成手法の普及によって、言うべきことをしっかり言うという文化がおざなりになってしまったことです。

コーチングに代表されるように、近年の人材育成方法は、相手に「自分の力で気づかせること」を非常に重視しています。しかし、きちんと成長に必要な情報を理解していない部下は、自分で「気づこう」にも限界があります。コーチングという部下育成手法が悪いわけではありませんが、コーチングが偏った理解のもとで普及したために、「言いたいことを言えないマネジャー」が増える結果になったのです。かくして日本全国の部下指導を行う上司の間で、「言うべきだと思ったことすら言えない病」が広がっています。

第5の理由は、近年、外資系の企業を中心に、目標管理制度の運用を見なおすところが増えてきていることです。

かつて、評価は年に2回程度、上司と部下が面談をして、その場で業績成果を言い渡し、必要な場合には助言や指導を行う場合がほとんどでした。しかし、近年は、この頻度を見直し、日々の業務の中で上司と部下が繰り返し面談を行い、フィードバックする事例が増えてきています。このような人事施策の変更にともない、フィードバックの技術はさらに求められるようになることが予想されます。

フィードバック 7つのポイント

それでは、相手のパフォーマンスの向上につながるようなフィードバックを実際に行うには、どんなことを意識すればいいのでしょうか。大きくフィードバックの流れを示せば、以下のようになります。

【事前】
情報収集:SBI情報の収集

【フィードバック】
(1)信頼感の確保
(2)事実通知:鏡のように情報を通知する
(3)問題行動の腹落とし:対話を通して現状と目標のギャップを意識化させる
(4)振り返り支援:振り返りによる真因探究、未来の行動計画づくり
(5)期待通知:自己効力感を高めて、コミットさせる

【事後】
フォローアップ

【事前】情報収集:SBI情報の収集
まずフィードバックをするときに最も大切なことは、「フィードバックから始めない」ことです。要するに、フィードバックは、フィードバックにおける事前準備が最も大切であり、そこから勝負が始まっているということです。

なぜなら、相手に刺さるようなフィードバックをするためには「できるだけ具体的に相手の問題行動の事実を指摘すること」が必要だからです。よって、私たちはフィードバックを行うために必要なデータを、事前に部下の行動を観察することで徹底的に収集していくことが求められます。

フィードバックをするときに必要になるデータとして、「SBI情報」を準備しておくのがよいということは、実践知の1つとしてよく知られています。SBIとは、シチュエーション(Situation)、ビヘイビア(Behavior)、インパクト(Impact)の頭文字をとったものです。

・シチュエーション(どのような状況で、どんな状況のときに)
・ビヘイビア(部下のどんな振る舞い・行動が)
・インパクト(周囲やその仕事に対して、どんな影響をもたらしたのか。何がダメだったのか)

この3点を具体的に伝えることで、初めて、相手はあなたの言いたいことを理解してくれます。

(1)信頼感の確保

次に、フィードバック面談のオープニングで最も重要なことは、こちらに対する「信頼感」を確保していくことです。一般にフィードバックは「ブラックボックス」の中で、上司―部下間で行われます。

フィードバックが奏功するかしないかは、「何を言うか(What)」ということもさることながら、「誰に言われるか(Who)」が非常に重要なのです。相手に対してリスペクトをもって接し、まずは信頼感を確保していくことが非常に重要です。フィードバックは、まずは相手の成長を願い、相手の意志をリスペクト(尊敬)する態度から始めましょう。

(2)事実通知:鏡のように情報を通知する

次にいよいよ収集したSBI情報を提示していきます。ここで最も重要なのは、収集した相手の問題行動を、いわば「鏡」のように相手の目の前に映しだし、客観的かつ正確に事実を通知していくことです。

言うまでもなく、「鏡のように」とは、できるだけ主観や感情を排除し、起きている事実を起きている通りに伝えることですこの段階では、無理に「褒めること」も、無駄に「ディスる(非難する)」必要もありません。なすべきことは、あなたが事実だと思うことを、鏡のように話し、しっかりと相手に突きつけることです。

(3)問題行動の腹落とし:対話を通して現状と目標のギャップを意識化させる

さて、あなたはSBI情報を収集し、今、相手にそれが問題行動であることを「鏡のように」突きつけました。先述した通り、大人の学びや行動変容には「痛み」がともないます。おそらく、相手は苦渋の表情を浮かべ、あなたも過緊張の状態におかれているものと思います。しかし、ここで大切なことがあります。一方向的に、あなたから部下に対してSBI情報を投げつけただけでは、まだ相手の理解が得られていないのです。

この段階で上司がなすべきことは、相手と向き合い、投げつけた事実に対して「対話」を行って、相手の理解を得ることです。上司と部下の考えていることや思っていることが違うということを「前提」として、相互の理解が一致する段階まで、時間をかけて「対話」を行うことが求められます。そうして相互の意味世界をすり合わせていくのです。

そのときに重要なのは、現状が、めざすべき目標と相当かけ離れていることを、しっかり認識してもらうことです。営業の仕事のように、数字でギャップが見えやすい内容なら、「月100万円のノルマに、あと30万円足りない」など、直接数字で示すことも可能です。カスタマーサポートや総務など数字でギャップを示しにくい仕事には、「本来ならば、その仕事の先にどんな光景が広がっているはずなのか」を問いかけ、現状とのギャップを部下に意識させてください。

(4)振り返り支援:振り返りによる真因探究、未来の行動計画づくり

この段階で次のステップとして行われるのが、過去と現在をもう一度しっかりと振り返り、未来の新たな行動計画や目標をつくりだしていくことです。これが、ギャップを埋める作業につながっていきます。こうした上司の行動のことを「振り返り支援」といいます。

振り返りを行っていくときのポイントは、部下が自らの姿を客観的に見られるように、部下自身に自分の過去・現在の状況を「言葉にさせること」です。今後は上司が「言葉にする」のではありません。むしろ上司は部下に問いかけを行うことで、部下に自分の言葉で語らせることをめざします。

(5)期待通知:自己効力感を高めて、コミットさせる

これでフィードバックは終了です。

上司からしっかりと今後の期待を通知し、エンディングにつなげます。この段階で、部下は痛みを感じているとは思いますが、2つのポイントを伝えて、しっかりと送り出してあげることが大切です。

第1のポイントは、上司がしっかりと期待を伝えることです。フィードバックを受けた個人を「孤独」にしないことです。しっかりとサポートしていく旨を告げることは、彼らが自らのあり方を立て直すときに非常に大きな資源になります。

第2のポイントは「再発予防(Relapse prevention)」をすることです。たいていの場合、問題を抱えた部下は、これまでにも自分の問題点について何度も指摘を受けてきた人が多いと思います。しかし、そうであるにもかかわらず、彼らは、自らの問題を解決できなかった。すなわち、問題を1度は解決しようとして、また「再発」してしまったということになります。

「再発予防」とは、このような問題を抱えている人に対して、「問題を起こすな!」と言い続けるのではなく、「問題が再発することを前提」にして、その「予防策」を事前にたてさせるということです。

【事後】フォローアップ
フィードバックは、フィードバック面談では終わりません。そこからのフォローアップとモニタリングが決定的に重要です。

また、フィードバックは1度きりで終わることはまれです。1回のセッションだけで時間が不足してしまった場合には、場合によっては、2度目のセッションの約束をします。1回のフィードバックだけでは、また部下が忘れてしまうような状況では、フォローアップの面談の時期を決めましょう。

フィードバックは個人の問題ではなく、「組織の問題」?

人を変えるためには、このように「手間暇」をかけ、かつ、「あの手この手」を尽くさなければなりません。しかし、私たちは、できる限りあきらめず、部下の変化を信じることこそが重要だと思います。

昨今の研究では、フィードバックは組織によって推進できるかそうでないかが決まってしまうということがわかっています。

要するに、フィードバックは「個人の問題」以上に「組織の問題」であるということです。フィードバックがなされるか否か、はたまたそれが奏功するかどうかは、個人レベルではなく組織レベルで強く規定されているということです。

上司と部下の間のフィードバックを高めていくことは、「個人だけが努力しなければならない問題」ではなく、「組織が本気で取り組んでいかねばならない課題」であると私は思っています。経営者や人事責任者は、フィードバックを「現場のマネジャー」まかせにするのではなく、自らも立ち上がり、自らの組織を「フィードバックに満ちあふれた組織」にする責務があります。

あなたの組織は、フィードバックが正しくなされている組織でしょうか?今一度、これを機会にマネジャーの皆さんが社内での人材育成を捉えなおすきっかけになれば幸いです。

中原 淳(なかはら・じゅん)東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
1975年、北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員などを経て、2006年より現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材育成・リーダーシップ開発について研究している。専門は経営学習論・人的資源開発論。著書に『職場学習論』『経営学習論』(ともに東京大学出版会)、『駆け出しマネジャーの成長論』(中公新書ラクレ)、『会社の中はジレンマだらけ』(本間浩輔氏との共著、光文社新書)など多(『The 21 online』2017年02月22日公開)

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