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FREETELは「日本のモノ作り」で世界一のメーカーになる

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(写真=The 21 online/増田薫(プラスワン・マーケティング代表))

【連載 経営トップの挑戦】 第17回 プラスワン・マーケティング〔株〕代表取締役 増田 薫

『FREETEL』のブランド名で事業を展開するプラスワン・マーケティング。この頃話題のMVNOとして耳にしたことがある人も多いだろうが、それだけでなく、スマートフォンを作っているメーカーでもある。そもそも、メーカーとしての事業のほうが、MVNO事業よりも早くから始めている。数多く現われたMVNOとプラスワン・マーケティングとが一線を画するのは、この点だ。創業者社長の増田薫氏は、なぜ「メーカーかつMVNO」であることを選んだのか?そして、なぜ業績を急伸させられているのか?お話をうかがった。

メーカーでもあり、MVNOでもあることのメリットとは?

――『FREETEL』は順調に成長しているようですね。

増田 はい。メーカーとしてのスマートフォン販売数は、国内・海外含め、直近の四半期では対前年比で約4.4倍の成長を遂げました。

海外進出は2015年11月から始め、これまで約1年2カ月で約30カ国・地域まで拡大しています。

MVNOとしての通信回線契約数も約8.6倍と、さらに大きな成長を遂げました。

――御社の大きな特徴は、端末のメーカーでもあり、MVNOでもあり、アプリの開発もしていることです。そのメリットはどこにあるのでしょうか?

増田 まず、ユーザーに買っていただきやすいことです。端末もSIMも一緒に扱っているので、他のMVNOよりも簡単に、大手キャリアと同じように契約していただけます。

私は、人のモノの買い方は変えられないと思っています。ですから、売り場についても、従来からユーザーが携帯電話を買っていたのと同じ場所に設けることにこだわっています。家電量販店に、NTTドコモやau、ソフトバンクのコーナーと並んでFREETELコーナーを作ってきたのはそのためです。

また、何かトラブルが起きてサポートセンターにご連絡をいただいたら、どんなトラブルでもその場で対応できます。メーカーから端末を仕入れているMVNOだと、「それは端末の問題なので、メーカーに問い合わせてください」などと、たらい回しにされてしまうことがありますが、当社は端末もSIMも自社のものですし、サポートセンターは社内に置いて、権限も与えてフレキシブルに対応できるようにしていますから、そういうことが起きません。

それに、コストを下げて、ユーザーにお支払いいただく端末の代金や通信費を抑えることができます。

――端末を自社で作っているぶん、他のMVNOと比べてコストが高くなっているのではないかという気がしますが……。

増田 逆なんです。メーカーから仕入れた端末を売っているMVNOは、他のMVNOと同じ端末を売ることになります。端末で他社との差別化ができないので、売上げを伸ばすためには、広告宣伝費をどんどんかけるか、安く売るしかない。広告宣伝費をかければ、当然、コストが高くなりますし、安く売るためには大量に仕入れなくてはなりませんから、在庫リスクが大きくなる。仕入れた在庫を売るために、販売コストも高くなります。当社は、他社にはない、特徴のある端末を自社で開発していますから、こうしたコストを低く抑えられるのです。

――特徴のある端末というと?

増田 他の各メーカーが出している端末は、どれも似ているように思うんです。価格によってスペックが違うだけで、それぞれの特徴があまりない。でも、ユーザーによってニーズは違います。ですから当社は、それぞれのニーズに合った特徴のある端末を、自社開発によって作っています。

たとえば、『RAIJIN雷神』は電池が5,000mAhもあるのが特徴です。ヘビーユーザーでなければ1週間もつと思います。『Priori 4』は、裏蓋を着せ替えして、カラーバリエーションを楽しめます。

左から『Priori 4』、フラッグシップモデルの『SAMURAI KIWAMI極2』、『RAIJIN雷神』
左から『Priori 4』、フラッグシップモデルの『SAMURAI KIWAMI極2』、『RAIJIN雷神』
『Priori 4』の裏蓋。着せ替えることでカラーバリエーションを楽しめる
『Priori 4』の裏蓋。着せ替えることでカラーバリエーションを楽しめる

今、多くのメーカーはODM、つまり設計から工場に任せるビジネスを広げていますが、当社はEMS、つまり生産だけを工場に委託する形を取っています。ODMだと、工場としては同じ基盤でいろいろな製品を作れるほうがいいわけですから、製品に特徴がなくなってくるんです。

また、ODMよりもEMSのほうが不良率を下げられます。当社の不良率は国内の大手メーカーと同等レベルで、まったく遜色ありません。

不良率が下がると返品が減りますし、サポートセンターへの問い合わせも減りますから、そのぶんのコストも下がります。

――開発の体制はどうなっているのですか?

増田 今、当社の社員数は約200人で、そのうち半数以上が開発に携わっています。私は「日本メーカーとして、2025年9月までに世界一のスマホメーカーになる」と決めているのですが、みんな、それに共感して入社してくれた技術者たちです。たとえば、国内の大手メーカーの元品質管理責任者も入社してくれました。

――御社が独自に開発した技術もあるのですか?

増田 そうですね。たとえば、FREETEL UIというインターフェイスがそうです。Androidだと、通常は上からスワイプする動きをしなければならないので片手では使いづらいのですが、FREETEL UIは片手で操作しやすいように設計されています。

また、通常はホームボタンと指紋認証にしか使わないボタンに5つの機能を持たせています。これも、片手で使いやすいようにするためです。

メーカーというと、ハードばかりが注目されますが、私はハードとソフトの両方が重要だと考えています。ですから、当社にはハードの技術者もソフトの技術者も多くいます。

当社の端末には『SAMURAI』というシリーズがあるのですが、この名前には、日本メーカーであるという意味と、ハードとソフトの集合体であるという意味とを込めています。日本刀の刀身は、硬い鋼と柔らかい鋼を組み合わせてできていますから。

――かなりの力の入れようですね。

増田 かつては、ソニーの『ウォークマン』に代表されるように、日本メーカーの製品が世界を席巻していました。しかし、今はその輝きが失われて、日本人も海外メーカーの製品を買うようになってしまっている。日本人が買っているスマホは、多くが海外メーカーのものです。

当社は、今や失われてしまった日本のモノ作りの原点に戻ることにしたのです。ユーザーのことを徹底的に考えて端末を作っています。これが、当社の端末が日本でも海外でも売れている根本的な理由だと思います。

――ユーザーにFREETELの端末の良さを伝えるために、どういうことをしているのですか?

増田 納得しないモノには1円もお金を払いたくないのが人ですから、見て、触って、納得していただくために、お店が大切だと思っています。ですから、先ほどお話ししたように、家電量販店など、従来からユーザーが携帯電話を買っていたのと同じ場所にFREETELコーナーを作っていくとともに、今年1年間でFREETELショップを全国に200店舗作ることにしています。

常識は変わる。それなら、私が変えたい

(写真=The 21 online/増田薫(プラスワン・マーケティング代表))
(写真=The 21 online/増田薫(プラスワン・マーケティング代表))

――メーカーとして端末に力を入れていることはよくわかりました。MVNOとして、通信に対してはいかがでしょうか?

増田 やはり、ものすごく力を入れています。たとえば、昨年から「W(ダブル)増速マラソン」という取り組みをしています。これは、毎月2回、回線を増やして、通信速度が落ちないようにするものです。

また、最新のシステムをうまく組み合わせることで、通信速度を落とさずにSNSパケット代無料などを実現することができています。私がMVNOをやろうと思ったのはデルにいたときなのですが、デルはグローバル企業なので、世界中のMVNOの事例を集めることができました。成功しているMVNO、失敗しているMVNOの事例をかなり勉強する中で、目をつけた技術です。

――「通信速度に難はあるけれども、とにかく通信費が安い」では、ユーザーに選んでもらえない?

増田 もし吉野家の牛丼がまずかったら、安くても食べに行かないでしょう? 「安かろう悪かろう」ではマーケットで勝負できません。

ユーザーに買っていただいてこそ、ビジネスは回ります。じゃあ、なぜそのユーザーのことを考えないのか? 当社はユーザーのために端末に徹底的にこだわるし、SIMにも徹底的にこだわります。

こだわりますが、端末だけ、あるいはSIMだけ、FREETELのものを使いたいというユーザーがいるのであれば、そうしていただいてもかまいません。ユーザーのことを考えれば、「しばり」を設けるべきではありませんから。

――契約してから2年以内に解約をすると違約金が発生する「2年しばり」も、御社にはありませんね。

増田 だいたい、新製品を出すサイクルが2年よりも短いのに、なぜ2年間、乗り換えられないようにしているのか? 不思議でなりません。そのために、使ってみたい新しい端末が発売されたり、使っている端末の画面が割れたりしても、我慢して今の端末を使い続けている人が多いでしょう。

確かに、端末の代金を2年間かけて分割で支払いたいというユーザーもいますから、それは否定しません。当社にも「スマートコミコミプラン」という分割払いのプランがあります。ただし、半年以上使っていただければ、分割払いの残金はナシで別の端末に乗り換えられる「とりかえ~る」というサービスを提供しています。新しい端末の代金に残金を上乗せすることはしません。

――画期的なサービスですね。

増田 5年前の常識と今の常識は違いますし、今の常識と5年後の常識は絶対に違うと思います。常識は誰かが変えるわけです。だったら私が変えたい。

変えるときに羅針盤になるのは、利益ではありません。ユーザーが良いと思うかどうかです。ユーザーが良いと思えば、それが新しい常識になります。我々はユーザーの軸でしか考えていません。別に利益を出すために生まれてきたわけではありませんから。人生は1回なんですから、本当に納得できることをやりたい。

私はソースネクストに入社した29歳のときに初めて社会人になって、ひたすら店頭で販売をしていました。お店が好きなんです。お客様に無理難題を言われると気持ちよくて仕方がないんですよね(笑)。解決できるチャンスがあるわけですから。今も同じ想いで仕事をしています。

日本のITサービスを進化させたい

――創業の経緯についてもお教えください。

増田 デルにいたとき、ひょんなことから携帯電話事業を立ち上げることになりました。当初は1人チームだったので中国の製造工場を見ることもできたのですが、行ってみると、日本メーカーの端末も海外メーカーの端末も同じ工場の中で、同じように作っているんです。私は「モノづくり日本」を信じていたのに、これではとてもそうは言えないと思いました。それで、「モノづくり日本」をイチからやり直すために、自分でメーカーを立ち上げようと思ったのです。

――FREETELの端末の製造も、中国の工場に委託されているのですよね?

増田 委託とは言っても、日本人の社員が貼りついて見ています。作業指示書も全部、当社の社員が作っています。

「格安スマホ」なんていう言葉が世の中では使われていますけれども、当社のモノづくりはいっさい妥協をしていません。日本では安く思えるかもしれませんが、世界では標準価格ですよ。

――SIMフリーの端末を作られた理由は?

増田 デルでは日本の携帯電話事業の責任者として海外に行く機会が多くあったのですが、その間の通信費が10万円くらいしたんです。海外の人たちは「空港でSIMを差せばいいじゃないか」と言うのですが、「SIMって何?」という感じでした(笑)。

それで、SIMを買って差してみたのですが、使えなかった。SIMロックがされていましたから。SIMロックとは不便なものなんだなと、そのときに初めて気がつきました。そこで、SIMフリーの製品やサービスを日本で提供することにしたのです。FREETELというブランド名は、SIMフリーの携帯電話という意味です。

日本でもSIMカードは発売されていましたが、SIMフリーの端末はないという不可解な状況が続いていました。本当にMVNOのマーケットを作ろうと思ったら、SIMだけでは電話がかけられないので、端末が絶対に必要ですよね。端末のメーカーとして起業したのには、マーケットを作るためという理由もあります。ハードウェアは船のような存在です。ハードウェアがあるから、その上にSIMが載せられる。アプリなどで、サービスも載せられます。

それに、ハードウェアがあればブランドを作りやすい。私はパソコンのソフトウェアの会社とハードウェアの会社の両方を経験しているのでよくわかりますが、ハードウェアは花形なんです。家電量販店でも目立つところに置いてあるのはハードウェアで、ソフトウェアは離れたところに置いてあるか、置かれてさえいないことも多い。これも端末のメーカーとして起業した理由ですし、海外展開を端末から始めている理由でもあります。

――日本での今後の展開として考えていることはありますか?

増田 端末とSIMとアプリをすべて手がけているので、それをもとにITサービスを提供することを当初から考えています。

アフリカのガーナと日本と、どちらのほうがITサービスが進んでいると思いますか?

――当然、日本だと思っていますが……。

増田 全然違いますよ。ガーナでは携帯電話での送金なんて、ずっと前から簡単にできました。中国に対しても、日本は5年くらい遅れていると思います。このままでは2020年の東京オリンピックが恥ずかしくて仕方がない。この状況を変えたいんです。

今、具体的に考えているのはFinTechです。居酒屋で「割り勘ね」と言ってお金を数える時代は終わりますよ。確実にキャッシュレスに向かっていますから。海外に行くときも、キャッシュレスになれば、空港で両替をする必要がなくなります。

――海外展開についての今後の展望は?

増田 海外展開のフェーズ1は悪くなかったと思います。まず、中南米での展開を狙いました。中南米のマーケットではキャリアが強くて、キャリアに採用していただいて、キャリアの店舗で販売してもらわないと、端末が売れないんです。そして、キャリアの要求が厳しい。その要求に応えられるかどうかを試すために、あえて中南米にチャレンジしました。その結果、アメリカ・モビルという世界第4位のキャリアと契約し、端末を卸しはじめることができました。

これで当社のモノ作りのレベルに確信が持てましたから、東南アジアや中東、アフリカなどのマーケットでの展開も始めました。これらはオープンマーケット、つまり家電量販店などで端末を買う市場です。2018年の海外での端末販売数は700万台を目指しています。

フェーズ2では、世界第3位、第2位、さらに第1位のキャリアとの契約を目指していきます。これが大きな目標です。

――海外展開のための人材の採用もしているのですか?

増田 最初からしています。当社の取締役にイアン(・チャップマン・バンクス)という英国人がいるのですが、モトローラの元副社長で、私のデル時代の上司でもあります。モトローラが伸びてノキアに迫った時期に携帯電話事業を担当していましたから、人脈も含めて、大いに力になってくれています。他にも、サムソンやノキアからも人材が来てくれています。

――FREETELが他のMVNOとまったく違う企業だということが、よくわかりました。ありがとうございました。

「モノづくり日本」を再び世界に

FREETELは、どうも他のMVNOとは違うらしい。通信費の安さをPRしているのは同じだが、自社で端末を開発し、今年は店舗の展開までするという。とにかく通信費を安くしようとするなら、端末の開発や店舗に資金を投じることはしないほうがいいのではないか。

そうした疑問を持ってインタビューに臨んだが、増田氏の考え方はまったく別の次元にあることがわかった。印象的だったのは、「本気でマーケットを拡大しようとしていないMVNOに負けるわけにはいかない」という言葉だ。たまたま吹いてきた追い風に乗ったわけではなく、自らSIMフリー端末を世に出して風を吹かせた。その自負が感じられた。

ベンチャーにとって、インターネットサービスに比べると多くの資金が必要で、ノウハウの蓄積も必要な製造業は、ハードルが高いだろう。しかし、戦後、世界を席巻した日本メーカーは、多くがもとはベンチャーだった。大企業になることで失われがちな日本のモノ作りの精神は、ベンチャーにこそ、純粋な形で継承できるのかもしれない。

増田 薫(ますだ・かおる)プラスワン・マーケティング〔株〕代表取締役
1972年、東京都生まれ。ソースネクスト〔株〕、Lenovo Japan、Dell Japanで営業部門の責任者を歴任。2012年、プラスワン・マーケティング〔株〕を起業。(写真撮影:まるやゆういち)(『The 21 online』2017年02月25日公開)

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