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<連載>中国人エリートの「グレーゾーン」での戦い方・第1回「グローバル人材の条件」

グローバル人材になるための「闘いの作法」

(写真=The 21 online)

世界経済の中で、着々とその存在感を増しつつある中国企業。その力の源を、人口の多さ、市場の巨大さだけに求めるのはもはや時代遅れだ。中国人エリートたちはすでに、日本人が太刀打ちできないほど高いビジネス能力とグローバルな視点を身につけている。上海に住み、中国で二つの会社を経営する江口征男氏は、「彼らに立ち向かうため、日本人は中国人特有の『グレーゾーン』の考え方を学ぶべき」と語る。多くの中国人と戦ってきた江口氏が説く、「グレーゾーン思考」とは?

ファーウェイが標榜する「灰度哲学」とは?

中国には「灰度哲学」という考え方があります。

ビジネスや商売では、白黒はっきりした純粋かつ極端なものを追い求めるのではなく、混沌とした灰色(グレーゾーン)の中にこそ解を見つけるべきだという思想です。「白と黒」「是と非」「友と敵」「長期と短期」「理想と現実」の間にこそ、最適解があるという考え方です。

世界有数のスマートフォン・通信機器メーカーとなっている華為(ファーウェイ)の創業者任正非CEOも「純粋な白と黒など自然界には存在しない。灰色こそが自然そのもの」「ファーウェイの経営思想の核心は灰度哲学である」と言っています。

グレーゾーンで解を見つけるためには、自分の理屈、常識に固執するのではなく、相手や周りの理屈・常識をまずいったん受け入れた上で、(相手の言いなりになるのではなく)その状況の中で自分の利益を最大化する方法を考えて実行する必要があります。「柔能く剛を制す」ではありませんが、場合によっては自分の力だけで勝負するのではなく、相手の力をうまく利用したり、相手のミスや弱みにうまくつけ込む必要も出てくるでしょう。自分のスタイルを持つことは重要ですが、1つのスタイルに固執するのではなく複数のスタイルを持ち、相手や状況に合わせて一番勝つ可能性の高いスタイルをその時々で選択し、うまくいかなければまた別のスタイルに臨機応変に変えることが重要なのです。

「合理的な灰度(グレーゾーン)の許容は華為(ファーウェイ)の発展に影響を与える様々な要素を調和させる。この調和の過程が『妥協』であり、調和の結果を『灰度』と呼ぶ」という華為の任CEOの言葉通り、グレーゾーンに解を見つけるということは、よい妥協点を見つけるプロセスでもあります。ビジネスで1人勝ちして全部持ち逃げするのではなく、複数の関係者(ステイクホルダー)がwin-winとなるスキームを作り、1人ではなし得ない大きな結果を出した後で、結果に貢献した複数のメンバーで成果を公正に分け合うということでもあるのです。

アメリカでも中国でも「グレーゾーンに解がある」

この「グレーゾーンにこそ最適解がある」という灰度哲学の考え方は、私が中国・アメリカで10年以上ビジネスをしてきた中で最も重要だと考える思想であり、今、日本人ビジネスマンに最も足りない考え方の1つだと思うのです。

今後、特にグローバルでの活躍を目指す日本人にとって、自分のよく知っているホームグラウンドではなく、自分の常識が通用しないアウェイでのサバイバルに役に立つ「グレーゾーンでの闘い方」を身につけることは必須になるでしょう。

また日本国内だけでビジネスをする日本人にとっても、グレーゾーンでの闘い方を知ることはとても有益だと思います。今後人口が減り、大きな成長が期待できない日本では、誰から見ても白黒はっきりしている領域は、必然的に競争が激しくなり多くのビジネスマンにとっておいしい場所ではなくなります。これからは一見中身のよくわからないグレーゾーンの中に勇気を持って飛び込み、そこで最適解を苦労して見つけた人が勝者となる時代が、日本にもやってくるのです

「白黒はっきりしない」という違和感に慣れる

日本人ビジネスマンが、「グレーゾーンでの闘い方」を身につけるためには、2つのことが必要です。

まず1つ目は「グレーゾーンに慣れる」ことです。

グレーゾーンはカオスです。自分の思い通りにならない世界、自分の常識が通用しない世界です。想定外のことが頻繁かつ突然起こる世界でもあります。これまで白黒はっきりした世界を好んで生きてきた多くの日本人ビジネスマンにとっては、極めて居心地が悪い世界だと思います。

これまで自分とは全く関係ない世界だったはずのグレーゾーンで、誰も好き好んで勝負したいとは思わないでしょう。昔、白黒だけの世界で生きていた私にも、その気持ちはよくわかります。

しかし遅かれ早かれ、自分が生き残るためにグレーゾーンでの闘い方を学ぶ必要があるのです。自分が慣れ親しんだ居心地のよい場所に居続けても今後5年は安泰かもしれませんが、10年後に生きていられるかどうかはわかりません。だとすれば、できるだけ早めに「グレーゾーンでの闘い方」学んだほうがいいことは明白でしょう。

そのためには、まず意図的にグレーゾーンに入り、慣れる必要があります。今後この連載で紹介する事例を読むこともその1つだと思いますが、百聞は一見にしかずなので、皆さん自身で「グレーゾーンの違和感」を味わうのが一番いいと思います。

これまでの延長線上にない、自分常識や価値観が通用しない世界に入ってみることこそがグレーゾーンに慣れる第一歩です。特に自分が少数派、弱者の立場となる環境に身におくことが重要です。そしてそこでどうやって自分の価値を出していくか、どうやって強者と互角に闘っていくかを考えて実行してみることが、グレーゾーンでの闘い方を身につける取っ掛かりになると思います。

3割は諦め、残り7割を必死で取りにいく

そして2つ目は、実際にグレーゾーンで結果を出す方法、生き残る術を学ぶことです。
なかなか自分の思い通りに事が進まないカオスの中国で生きている普通の中国人は、「没方法(自分だけ努力してもどうしようもない)」と考えて、運を天に任せます。結果に関係する変数の多くは自分の思い通りにコントロールできないので、神様が自分に微笑むという宝くじにかけるという選択をするのです。

しかし中国で成功している中国人エリートは違います。カオスの中でも必死に足掻くのです。変数全てをコントロールして100点を取るという非現実的な理想を夢見るのではなく、結果に影響を与える主要な変数だけに絞って、必死にコントロールして、できるだけ自分に有利な結果を出そうとするのです。

別の言い方をすると、まぐれの100点ではなく、70点を確実に取りにいくということです。この30点を諦められる余裕と、70点を何がなんでも取りにいく執着心の両方がグレーゾーンの闘いでは重要なのです。そしてそのためには、諦めてもいい30点と、何がなんでもコントロールすべき70点の部分を見極める力が必要です。

また、それだけでなく、何がなんでも70点を取るために、その可能性を高める「引出し」がたくさん必要となります。グレーゾーンでは百発百中の策などありません。1つの策を講じてうまくいかなければ2つ目の矢を。2つ目の矢もうまくいかなければ、3つ目の矢をすぐに射なければ、70点ですら取れないのです。

私はこれから、連載の中でこれまでの10年弱、私自身が中国に住み、中国人エリートとビジネスをしていく中で経験したり学んだりしたグレーゾーンでの闘い方を紹介していきたいと思います。

中国では「池の水が澄みすぎると魚がいなくなる」とよく言われています。自然界と同様に現実のビジネスの世界でも一定のグレーゾーンが必要であり、そのグレーゾーンの中での最適解を見つける力こそ、これから日本人ビジネスマンが身につけるべきノウハウなのです。

江口征男(えぐち・まさお)GML上海総経理
Tuck (Dartmouth) MBA。横浜国立大学大学院工学研究科修了。外資系経営コンサルティング会社、子供服アパレル会社を経て2007年より中国上海移住。現在上海にて経営コンサルティング会社2社(GML上海、Y&E)を経営。著書に『中国13億人を相手に商売する方法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。中国ビジネスに関する講演、執筆多数。(『The 21 online』2015年11月03日公開)

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