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アニメ制作スタジオを「先行投資」で強くする

【連載 経営トップの挑戦】 第18回〔株〕ツインエンジン代表取締役 山本幸治

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(写真=The 21 online/山本幸治(ツインエンジン代表))

フジテレビの深夜アニメ放送枠『ノイタミナ』の初代編集長として活躍してきた山本幸治氏。ノイタミナ(NOITAMINA)は、アニメーションの常識を覆したいという想いから、ANIMATIONの綴りを逆にしてつけられた名前だ。2014年にはフジテレビを飛び出して〔株〕ツインエンジンを起業し、活躍の場をさらに広げている。ツインエンジン自体は企画プロダクションだが、グループにアニメ制作スタジオが複数社ある。アニメ制作スタジオといえば経営が難しいというイメージが強いが、山本氏はどういう戦略のもとにグループを率いているのか? お話をうかがった。

フジテレビの中ではできなかったことを外からやる

――まず、ツインエンジングループの概要について教えてください。

山本 まだ情報発信をあまりしていませんから、わかりにくいですよね。めまぐるしく変わるので、会社案内も現在進行形で作っています。

(写真=The 21 online)

ツインエンジンは企画会社です。物語や絵といったアニメの内容面の設計と、それと接続するビジネススキームの構築をしています。クリエイティブとビジネスの2つをエンジンの動力源にたとえたのが会社名の由来です。簡単に言うと、制作スタジオに対していかに良い発注をするかが仕事です。

ツインエンジンは中核となる戦略として「スタジオブランディングビジネス」というものを打ち立てていて、スタジオコロリド、ジェノスタジオ、レヴォルトという制作スタジオをグループとして強化しています。制作スタジオは、アニメの制作を受注し、実際に絵を描いて作るのが仕事です。これら制作スタジオ3社の代表は、今は僕が兼ねています。また、4月に劇場公開する『夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーのうた』を制作しているサイエンスSARUという制作スタジオの取締役も務めています。

(写真=The 21 online)

スタジオコロリドはツインエンジンよりも前に設立された会社です。世田谷区の豪徳寺にある、500平米くらいある4階建ての大きなコンクリートの一戸建てをリフォームしてスタジオにしています。『台風のノルダ』(2015年公開)という短編映画が最新作ですが、現在、長編映画の準備をしています。アニメ業界でデジタル作画を導入した先駆者で、何十社というアニメ会社が見学に来ました。メインのクリエイターの多くが20代という、可能性に満ちたスタジオです。

(写真=The 21 online)

ジェノスタジオは映画『虐殺器官』(今年2月3日公開)を制作した会社です。マングローブという制作スタジオが経営破綻したことを受けて、制作を継続するために2015年に設立しました。

マングローブの経営破綻は、アニメ業界の象徴的な事件でした。僕はマングローブの作風がすごく好きだったのですが、作品のクオリティを高めるために赤字を出して、その赤字を埋めるためにマングローブらしくない作品を受注してブランド価値を下げてしまい、縮小再生産のループの中で破綻しました。マングローブの魅力を受け継ぎつつ、業界の課題をどう解決していくのかという宿命を背負った制作スタジオだと思っています。

(写真=The 21 online)

レヴォルトは完全に新設の制作スタジオです。アニメの制作現場の過酷さやテレビ放送に納品が間に合わないことなどがネットニュースになったりしていますが、そんな時間に追われる制作現場で飛ばされがちな工程、たとえば動画検査という工程をしっかりとやりたいという制作マンの理念のもとで、2016年に設立しました。

制作スタジオが目指す方向には質を求めるか量を求めるかの両極があって、質のほうの一端が、京都アニメーションのように、外注比率を下げ、自社内で制作するシステムを安定させるやり方です。このやり方を完成させるためには長期視点での人材の育成やノウハウの積み上げが求められますし、かつ、どこかで大ヒットがないと維持が難しくなっていくものなのですが、僕たちはそれをクループ戦略の中で短縮して実現できないかと考えています。

――フジテレビを退職して、新たにツインエンジンを起業したのはなぜですか?

山本 フジテレビで10年あまりノイタミナをやってきて感じた限界を超えたかったからです。退社を決意するまでにはフジテレビ社内でできることも模索をしてきましたが、外に出て勝負することでしか限界を超えられないと感じました。

フジテレビは制約も多かった。10年間、社内で軋轢を生みながら、さまざまな古いルールを壊してきましたが、時代が変わってそれが当然になってしまうと、費やしたエネルギーはムダだったのではないかとどこかで思ってしまいます。フジテレビを変えたいと思ってやっていた頃もあったのですが、その動機では、あるいはそれを理由にしていては、その先10年を戦えないし、大きな勝負はできないとわかったのです。向こう10年を戦える新たなビジョンを持ち直したかった。

フジテレビも、戦略を持って全社体制でアニメに取り組めば、アニプレックスやバンダイグループ、東宝といったアニメ業界の大手の競争相手と渡りあえるだけのポテンシャルを持っていると思います。落ちてきているとはいえ圧倒的なメディア力があり、資金力もあり、優秀な人材もいます。

しかし、無料広告放送という、他に類を見ないほど効率的な、かつて最強だったマネタイズシステムを持っていることが、皮肉なことに、テレビ局に新しいエンタメビジネスにシフトする機運を生まれにくくし、視聴率の古い力学と、それを支える事務所行政などから脱却できなくさせているのです。

しかも、『ONE PIECE』や『サザエさん』はともかく、とくに深夜アニメは社内の位置づけが低く、アニメ業界の競合他社に対抗できる戦略を積み上げていくことの難しさをずっと感じていました。

――無料広告放送に代わるビジネスモデルが必要だと考えた、ということですか?

山本 それより一段階手前の話で、フジテレビでアニメ戦略を構築できるのかの挑戦をしていました。本気でテレビ局がアニメで勝負するなら、無料広告放送の強みを活かさない手はなく、プライムタイムの全国ネットにアニメ枠を新設するくらいのことをしないと勝てない。短期的にはバラエティ番組より視聴率が低かったとしても続けられるように、長期目線での戦略が必要です。しかし、当時はまだ社内にアニメ戦略と呼べるものがはっきりしていなかった時期で、ノイタミナは何度か消滅の危機があり、その度に死ぬ気で守っていました。フジテレビが今弱い原因の1つは、実行可能な戦略をきちんと練ることと、それを継続するという基本ができなくなっているからではないかと思います。

ノイタミナは深夜のローカル番組としてできることはある程度やりきっていたし、30分から1時間に枠拡大したところで、量的な拡大も頭打ちになっていました。編成バランス的に、それ以上アニメ枠が増えないことが見えていました。フジテレビは資金力があるので、系列外のTOKYO MXで放送するコンテンツを製作することも可能なのですが、実際には、それがGOになるのは、組織上難しいだろうと思います。

あとは、ネット配信に対するスタンスが定まらなかったという点でも、かつて強かったテレビ局特有の弱みが出ていました。

――ネット配信は、今やかなり一般的になっていますね。

山本 動画配信ビジネスの盛り上がりによる映像ビジネスの劇的な変化は、とてもエキサイティングでした。DVDやBDに対してユーザーが負担する金額は、アニメの場合、単価が高くて、30分当たり2,500円くらいだと言われていました。現在は、見放題の動画配信サービスによって、劇的に単価が下がっています。課金ハードルが下がることで、ユーザー層が拡大することを期待しています。

最近では、Amazonなどでネット配信用のドラマやバラエティ番組が作られていますが、テレビ業界の事務所行政的なしがらみがないので、1つのコンセプトに特化した面白い番組を作っています。しかも、マーケティングデータや戦略性に裏打ちされた強みも垣間見えます。

ネット配信のマネタイズは複雑に進化しています。よりユーザーの利便性を高くし、課金へのハードルを下げることで、100万人単位のユーザー数を獲得し、得られたシェアによってマネタイズする仕組みが構築されています。「レ点営業」と呼ばれる、携帯電話の販売時に端末代金割引とともに動画配信サービスへの加入をセットにするやり方や、Amazonプライムのように、動画配信サービスへの課金ではなく、他のサービスの付加メニューとして、いつの間にかユーザーがサービスを受けているモデルがシェアを伸ばしています。

テレビ局の全盛期には、作り手たちが直接的なマネタイズを気にしなかったからこそ、くだらない最高のバラエティ番組が生まれたと言われています。当時の番組制作にマーケティングなんてなくて、無数の外れた番組が打ち切られてきました。それでも、日本人の芸能界好きな特性と、放送枠の希少性から、外れた番組を衣替えしていくことで確実に成長できた。敵は他局との視聴率競争だけでした。

僕はいつもエンタメビジネスを分析するとき、クリエイティブプラン(作ること)、ビジネスプラン(売ること)、メディアプラン(届けること)の3つのプランに分類しています。テレビ局の作り手は、自局で放送することも、ほとんどの場合は枠も先に決まっているので、メディアプランを考えることがありません。直接売る機会もものもないのでビジネスプランにも触れず、「面白い番組を作って視聴率を取ろう」というクリエイティブプランだけしか考えない仕組みになっています。

それだから面白いものができた時代も確かにあったわけですが、今は、それゆえに視聴者を置いてきぼりにしやすくなっていると思います。「どういうお客さんにどう売ろうか」「それにはどういう届け方がいいか」を思考してモノ作りの指揮を執るプロデューサーに負けてしまう。さまざまなマーケティングデータを根拠に、いろんな手を打てる会社にも勝てなくなっていく。

テレビ局の大きな仕組みは、残念ながら現場の一兵卒が変えられることではありません。僕は、ノイタミナという、全タイムテーブルからしたらごく狭い領域だったことで、クリエイティブプライン、ビジネスプラン、メディアプランのすべてに触れることができた。そんなことを感じながら10年もノイタミナをやってきたので、アニメというエンタメビジネスの最先端で戦うには、テレビ局から出たほうがいいと確信するに至りました。そのほうがテレビの力をうまく使えるかもしれないと思いました。

僕自身は、テレビという媒体の強みをまたまだ活かせると思っているし、テレビ的なモノ作りの仕方をリスペクトしています。マーケティングデータによってユーザーのニーズを追いかけるモノ作りより、良かった頃のテレビ的なモノ作りのほうが個性的で発信力のあるエンタメが生まれる可能性があると思っています。マーケティングも睨みながらヒット率を上げたいとは思いますが、究極的には独自性のほうを重要視しています。

新たなエンタメビジネスの時代にどう勝っていくかを考えたとき、作り方の意味でも、見せ方の意味でも、「テレビ」は自分のキーワードになり続けると思っています。

アニメ制作スタジオが疲弊する理由とは?

(写真=The 21 online)

――独立をすると、フジテレビにいるときよりも、自主企画でアニメを制作することが難しくなりませんか?

山本 フジテレビにいた頃から、ビジネスの座組みを組んで企画を強く組み立てるのが仕事だったので、表面的にはあまり変わりません。裏側で大量の資金調達のリスクを負っているなど、変わったところもありますが、もともとリスクテイクをしていくのが自分の主義なので、自分でリスクを背負えるようになって、ある意味、清々しいと感じています。自社企画もかなりの数を進めています。夏頃、それを発表できるように準備しています。

イメージでお話しすると、独立してからは、「トヨタ戦略」ではなく「スバル戦略」なのかなと思っています。フジテレビにとっての『ONE PIECE』や『サザエさん』はトヨタのカローラです。ノイタミナ時代、僕は、フジテレビにいながらスバルのインプレッサを作っていたところがあった。

ただ、クルマ業界とは違って、アニメのようなソフト産業においては、スバルのクルマが突然大ヒットして、トヨタを抜き去ることがあり得ます。では、ヒット作を作るにはどうすればいいかというと、どの作品がヒットするか究極的にはわかりませんから、ある程度の量を作ることが必要になります。フジテレビの中では放送枠に縛られて量を作れないというのも厳しかったですね。

僕が編集長を名乗っていたときのノイタミナ枠は、1時間枠に30分番組を2本編成していました。今は30分枠1本に減っています。フジテレビは資金力があるので、制作本数をもっと増やして、大阪のMBS(毎日放送)のように系列外のTOKYO MXで放送してもいいと思うのですが、現実の組織論からそれは認められません。一方、アニプレックスは1クールに4~5本、多ければ7~8本も作っている。これではなかなか対抗できません。

まずは、ツインエンジンのタイトル数を、昔のノイタミナくらいまでは広げたいと思っています。

――量を作るために、制作スタジオをグループ化しているのですか?

山本 制作スタジオの経営には、みんな手を出さないんです。つきあいや救済の意味合いで資本参画することはあっても、構造的に赤字になりやすい制作スタジオの経営には外から手を出しにくい。制作で大きな黒字を継続的に出している会社は多くないと思います。

ツインエンジンの掲げる「スタジオブランディングビジネス」では、制作スタジオに長期目線で先行投資し、強くすることで、スタジオから生み出せる可能性のある利益を最大化することを目標としています。「制作を格好良く強くする」というビジョンで、制作スタジオの連携を広げています。単純に制作が好きだということも大きな理由ですが。

――制作スタジオが赤字体質なのは、なぜなのでしょうか?

山本 受注業の宿命で、クオリティを追求すると、スケジュールと予算を圧迫する構造になっているからです。努力をしても簡単には制作受注単価は上がらない。よほどの大ヒットが出れば別ですが、多少のヒットでは制作スタジオへの還元はごくわずかです。

予算が十分でないから人が十分に確保できず、疲弊して、作品の質も上がらず、納期も間に合わない。そうなると、次も制作単価の高い仕事を受注することができない、という悪循環に陥ってしまいます。

そうならないための方法の1つが、先ほども触れた京都アニメーションのように、規模の拡大を目指さず、質にこだわることです。発注元が取りあいをするような質の高い制作スタジオになれば、時間はかかりますが、制作単価を上げることもできるようになります。ただ、量が作れないとヒットに恵まれる可能性が物理的に下がるので、もし悪い循環に入ってしまった場合には打てる手が少なくなるという問題もあります。

そうかといって、量を作ろうとすると質が下がります。とあるトップレベルの制作スタジオが、受注量を増やすために、総グロスといって、受注した作品の制作をそのまま下請けに回すことをしていました。それによって一時的には売上げ拡大ができても、クオリティや信頼が損なわれ、その次の受注に悪影響を生むことになっていました。

――質を維持しながら量を作るのは難しいですね。

山本 そこでツインエンジンがしていることは、制作スタジオが、将来、質の高い作品を作って利益を生むことを見込んで、長期にわたる複数案件の契約をし、制作スタジオに先行投資していくことです。大手よりも高い制作単価で発注し、利益の還元率も大手より高くしてこうと考えています。

予算があれば、人を確保でき、作品の質を上げられて、ヒット作になる可能性が高まります。つまり、制作スタジオに先行投資をすることは、発注側であるツインエンジンと受注側である制作スタジオの双方にとってメリットがあるわけです。簡単に言うと、これが「スタジオブランディングビジネス」の仕組みです。

――実際に作品が世に出てヒットするまでは、ツインエンジンの持ち出しになりますね。

山本 そうです。ですから、将来を賭けられるような具体的なモノが必要です。人であったり、若さであったり、技術であったり。たとえばスタジオコロリドには石田(祐康)や新井(陽次郎)といった20代の若い人材がいて、デジタル作画という先行技術があるから投資できるわけです。

今はアニメバブルのピークです。まず、AmazonやNetflixといった海外配信勢が日本市場に参入し、国内の配信ビジネスに競争原理が働いて、アニメのB to Bの取引価格が5年前の3倍くらいに上がっています。

映画配給ビジネスも好調です。『君の名は。』(2016年公開)の大ヒットの他、『この世界の片隅に』(2016年公開)の興行収入も20億円を超えました。その前から、ノイタミナからも『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス』(2015年公開)が8.5億円を超え、『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(2013年公開)が10億円を超えるなど上向いてはいました。

しかし、そのバブルの恩恵を、受注側の制作スタジオはほとんど受けられていません。受けきれないほど仕事があって、制作スタジオはどこも手一杯で、発注側が制作スタジオのラインを押さえるのに苦労している状況なのに、制作スタジオのアニメーターの待遇が悪かったり、マングローブのように経営破綻する制作スタジオが現われたりしている。このままでは、いったん業界がつぶれることは目に見えています。

だから、発注側が得ている利益を、制作スタジオにもっと還元したい。格好良い制作スタジオが儲けられる時代を作りたい。それが我々のビジネスチャンスだとも思っています。

凄腕アニメーターに頼らないアニメ作りを

インタビュー記事中にもあるように、スタジオコロリドはデジタル作画に特化したアニメ制作を行なっている。これは、将来的な制作の効率化も目指すが、従来の「フリーランス」によるシステムと「アニメーターの祭り」のような制作スタイルを変えることにもなる。

「アニメーターはいろいろな制作スタジオを転々とするんです。ある熱い作品に人が集まっているという噂がまた人を集めて、その作品が終わったらみんな散り散りになる。そしてまた別の作品に集まる。これが従来からのスタイルです。

これはこれでダイナミックで面白いのですが、凄腕アニメーターの人数は限られているのでずっとは続けられないシステムです。人材の育成をしないと、業界が縮小していくでしょう」(山本氏)

ツインエンジングループの挑戦は、まだ始まったばかり。どんな作品を生み出していくのか、楽しみだ。

山本幸治(やまもと・こうじ)〔株〕ツインエンジン代表取締役
1975年、愛知県生まれ。〔株〕フジテレビジョンを経て2014年に〔株〕ツインエンジンを設立、現在に至る。(写真撮影:まるやゆういち)(『The 21 online』2017年03月25日公開)

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