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世界中の人の移動にバリューイノベーションを!

【連載 経営トップの挑戦】 第19回 WILLER〔株〕代表取締役 村瀬茂高

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(写真=The 21 online/村瀬茂高(WILLER代表))

ビジネスでもプライベートでも、長距離の移動をするときに高速バスを利用した経験がある人は多いだろう。さまざまな車輌の種類があり、全国に路線が張り巡らされている高速バスは、今や日本に欠かせない移動手段となっている。かつてはあまりポピュラーではなかった高速バスを現在の地位にまで押し上げたのが、業界最大手のWILLER GROUP。その裏には、いったいどのような戦略があったのか? 創業社長として同社を率い続け、鉄道事業への参入など、新たな挑戦も現在進行中で進めている村瀬茂高氏にお話をうかがった。

他社も扱う商品を、他社よりも進化させる

――御社は高速バス会社として広く知られていますが、もともと旅行会社として創業されています。起業の理由はなんだったのでしょうか?

村瀬 1994年に創業したときのビジョンは、若い人たちのレジャーを創造することでした。今はインターネットで簡単に情報を共有できますが、当時はまだ普及していなかったので、レジャーを創造することで人と人が出会う場を作り、そこに集まった人たちが情報を共有できるようにしようと思ったのです。そうすれば、世の中がもっと楽しくなって、人生が豊かになりますから。

具体的には、スキーやテニス、スキューバ、ウィンドサーフィンなどのスポーツを目的とした旅行商品を扱っていました。スポーツを一緒にすれば、知らない人同士でもコミュニケーションを取りやすくなりますよね。

――他に同様の商品を扱っている旅行会社はなかったのですか?

村瀬 ありました。他にもあることがすごく大事なことで、他社が扱っていない商品を扱っても成長することはできません。

他社も扱っている商品を、他社よりも進化させることで、顧客に選んでいただく。そうすると他社も追随してくる。そこで参入障壁なんて作らずに、他社にも成長してもらって、市場全体を拡大させる。このことが重要です。顧客が100万人の市場で30%を取れれば30万人ですが、1,000万人の市場で30%を取れれば300万人ですから。シェアは、市場の中で先行していれば取れます。

同業者が増えれば競争原理が働いて、顧客にとってより魅力的な商品が開発されていき、さらに市場が創造されますし、市場が拡大すると商品がより多くの場所で顧客の目に触れるようになり、流行を作ることにもなります。

――商品を進化させるとは、どういうことでしょうか?

村瀬 ヒット商品が出ると、それを横展開させようと考えるケースが多いと思います。たとえば、長野県で成功したら、次は同じ商品を新潟県でも売る。でも、これは進化ではなく、拡大ですよね。拡大も必要ですが、それだけでなく、一人ひとりの顧客が次は何をほしいと思っているのかというインサイトを拾って、応えていかなければならない。これが進化です。

――「インサイトを拾う」というのは、言うのは簡単ですが、実際には難しいと思います。

村瀬 社員全員が市場に目を向けて、インサイトを拾う意識を持つことですね。私が「これがインサイトだ」と決めるものではないし、企画担当者が決めるものでもありません。役職や勤続年数も関係ない。経験のない社員のほうが、顧客に近い目線でインサイトを拾えるかもしれません。あとは、拾ったインサイトから生まれたアイデアが、商品を作る担当者にきちんと伝わるシステムがあればいい。

今はSNSが普及していますから、たとえば、どこでどんな人がどんなことをツイッターでつぶやいているのかを調べることでもインサイトを拾えます。

「乗らない理由」を1つずつ解決していく

(写真=The 21 online/村瀬茂高(WILLER代表))

――高速バス事業に参入されたのは、どういう理由からだったのでしょうか?

村瀬 人と人が出会う場を作るという我々の役割を、インターネットが担うようになったからです。それで業績がすぐに悪くなることはありませんでしたし、すぐに市場がなくなることもなかったのですが、世の中に対する我々の存在価値は低くなってしまいました。世の中に価値を提供できなくなったということは、数年間はよくても、10年先を考えれば存続できないかもしれません。

では、これから先の10年、我々はどんな価値を世の中に提供していけばいいのか。それを考えて、「世界中の人の移動にバリューイノベーションを起こす」という新たなビジョンを掲げることにしました。

インターネットがあれば、情報は簡単に手に入れることができます。しかし、情報を得て、どこかに行きたいと思っても、交通が不便ではなかなか行けません。そこで我々が、世界中の人たちが世界の隅々にまで簡単、便利に行けるようにしよう、ということです。

とはいえ世界は広いですから、まずは日本から。飛行機を飛ばしたり鉄道を敷いたりも我々にはできませんので、バスを使った新しい移動のサービスを始めることにしたわけです。

――「新しいサービス」というと?

村瀬 当時、会社説明会で就活生に「我々は高速バスを始めます。高速バスに乗ったことがある人は?」と聞くと、200人中2~4人くらいしか手を挙げませんでした。若い人たちの大多数は、高速バスは自分たちが使う乗り物ではないと思っていたんです。東京-大阪間の移動のためには、まず新幹線を思いつき、次に飛行機を思いつく。高速バスは選択肢として想起されない存在でした。50代の男性が使うような乗り物だったんですね。

しかし、今は200人のうち、ほぼ全員が手を挙げます。若い人たちも、目的によって、高速バスを選ぶように変わったわけです。若い女性が、東京にできた新しいお店に行くためや、東京で行なわれるイベントに参加するために、地方から高速バスを使って移動するのも普通になっています。

この変化は、我々が従来とは違う高速バスのサービスを提供したことによって生じたものです。

――具体的には、どこが違ったのでしょうか?

村瀬 50代の男性が行く服屋さんと20代の女性が行く服屋さんとは違いますよね。それが当たり前なのに、従来の高速バスには50代の男性向け以外に選択肢がなかった。だから、若い人たちが「自分たちの乗り物だ」と思える高速バスを提供することにしました。

重要なのはイメージです。「喫茶店」と「カフェ」は同じものなのにイメージが大きく違うように、バスという基本的なハードは変わらなくても、シートをピンクにしたり、清潔感を出したりと、ビジュアルを工夫することでイメージを大きく変えられます。長時間座っていても疲れにくいシートを導入するなど、機能面でも快適にする工夫をしました。

夜行バスは暗いので、隣に男性が座るのがイヤだという女性もいます。ですから我々は、女性の隣には必ず女性が座ることを確約しました。寝顔を見られるのがイヤだという方もいますので、顔を隠すカノピー(フード)をつけたシートを開発しました。このように、若い女性が高速バスに乗らない理由を1つずつ解決してきました。

――今は若い女性の利用が多いのですか?

村瀬 女性利用者が約60%です。年齢の割合は、40歳未満が約80%ですね。

――顧客に合わせたサービスを開発したということですね。

村瀬 それまではなかったマーケティングの考え方を、我々が交通業界に持ち込んだわけです。顧客をセグメント化し、それぞれのターゲットに合わせて、デザイン、機能、運賃などを決めています。20代の女性のためのシート、性別に関係なくビジネスマンのためのシートなど、シートだけでも17種類あります。

――先ほどの「インサイトを拾って商品を進化させていく」ことを、高速バスでも実践している。

村瀬 そうです。運行エリアを拡大させるとともに、顧客の要望に応えてサービスを進化させてきました。さまざまなセグメントの顧客に向けて、商品のバラエティも増やしてきました。

――他の高速バス会社との協力はしているのですか?

村瀬 参入障壁を作らないために、当社が開発した予約システムを他社に提供したり、高速ツアーバス連絡協議会に参加して安全基準を業界全体で作ったりと、市場拡大のための協力をしてきました。ただ、商品開発については、当社が独自の方法で行なっています。

――業界のトピックとしては、2013年に「高速ツアーバス」と「高速乗合バス(高速路線バス)」が「新高速乗合バス」に一本化されるという制度変更がありました。この影響はありましたか?

村瀬 適用される法律が旅行業法から道路運送法に変わることで、申請をしたり改善をしたりしなければならないことが多くありましたが、市場の拡大のために必要なことだったと思います。高速ツアーバス連絡協議会も、満場一致で一本化に賛成しました。

高速ツアーバスは、旅行業者が参入して運営してきました。旅行業者はマーケティングの発想を持っていますので、顧客がほしいサービスを開発し、業界を活性化させてきました。一方、高速路線バスは、安心して利用できる安全な公共交通機関として長い歴史を持っています。この両者が一本化されることは、顧客にとって望ましいこと。業界全体が顧客の望む姿になるということは、将来的に市場が成長できる環境が整うということです。

市場が成長してこそ、企業は健全な発展ができます。より良いサービスにより高い付加価値をつけて提供することができますから。成長しない市場を守ろうとすると、競合が起こって、運賃の下げあいになっていくだけです。

――現在は日本中に高速バスの路線網が整っているようにも思いますが、まだ市場は拡大すると見ていますか?

村瀬 面的な拡大については、他社との競合が生じるところにまで来ていると思います。ただ、まだ高速バスに乗っていない人はたくさんいます。その人たちが「乗らない理由」を解決して、「乗る理由」に変えていけば、まだまだ市場の創造はできます。

日本で、世界で、地域の価値を高めたい

――2010年のチェジュ航空をはじめ、LCCとのパートナーシップ契約を次々と結んでいます。これはなぜですか?

村瀬 あらゆる交通をネットワーク化し、シームレスにつなげて、目的地に簡単、便利に行けるようにすることを目指しているからです。誰もがそれを望んでいるでしょう。

LCCで空港に降りた人は、空港が目的地ではなくて、空港から目的地までなんらかの手段で行かなくてはなりません。そのために、短い乗り換え時間で高速バスを使っていただけるようにするためのパートナーシップ契約です。

LCCと高速バスだけでなく、鉄道や旅客船など、あらゆる交通をシームレスにつなげることが重要だと考えています。

――鉄道といえば、第三セクターから運行事業を引き継いで、2015年から京都丹後鉄道の運行もしていますね。

村瀬 これまで当社が手がけてきたのは、200kmを超えるような、都市と都市を結ぶ長距離の交通でした。これからは、都市を中心にしたエリア内の交通にも力を入れていきます。エリア内の交通で基軸となるのは、速達性と定時制という特長のある鉄道。だから、鉄道事業に参入したのです。

京都丹後鉄道は5市2町を通っていて、114kmもの長さがあります。これを基軸にして、枝葉となる路線バスやレンタカー、自転車などの交通をマーケティングしながら整備し、みんなが使える交通に変えていっています。WILLERの総力を挙げて、モデル都市を作っているところです。

――具体的には、どういうことをしているのですか?

村瀬 移動というのは、目的があるからするわけです。高速バスは、もともと目的を持っている人に向けたサービスです。たとえば「東京ディズニーリゾートで遊びたい」という目的を持っている人のために、東京ディズニーリゾート行きの高速バスを提供する。

しかし、鉄道の場合は沿線が決まっていますから、乗っていただくためには自分たちで目的を作り出さなければなりません。もちろん、景観や食、沿線の方々との交流といった、目的になり得る素材はもとからあるのですが、放っておいてもそれを目当てに人がどんどん来るほどのコンテンツにはなっていません。

そこで必要なのは、コンテンツ自体の魅力を上げることと、エリア内に点在するコンテンツを交通でつなぐことです。東京の価値が高いのは、上野の美術館や東京タワーといった個々のコンテンツの魅力はもちろんですが、それだけでなく、上野の美術館から東京タワーに地下鉄で簡単に行けるように、交通が整っているからです。

ですから我々は、この1~2年間、魅力の高いコンテンツのアイデアを生むためのビジネススクールを開講したり、そのアイデアに投資するための地域ファンドを作ったりすると同時に、地元のバス会社と共通の1日乗車券を作るなど、交通を整備する取り組みも進めてきました。

――今のところ、手応えはいかがですか?

村瀬 地元の方々との連携など、下地はできたという感じですね。人が集まってくるという結果が出るのは、これからです。

――他に、今、とくに注力されていることはありますか?

村瀬 日本国内の地域の価値だけでなく、世界の都市の価値を上げることも、これから10年間をかけてやっていきます。これまで築いてきた日本品質のサービスを世界に提供していきたい。現地のサービスを否定するわけではありませんが、選択肢として示していきたい。そうすることで、「世界中の人の移動にバリューイノベーションを起こす」という当社のビジョンの実現に向かっていけると思います。

たとえば、2016年にはベトナムにWILLER VIETNAMという会社を作りました。ASEANをはじめ、世界各地で調査を始めているところです。

業界の常識は本当に常識か?

インターネットの登場をきっかけに始まり、成功を収めている事業は数多いが、そのほとんどはインターネットを使った事業だ。「インターネットが普及したからこそ、インターネットではできない事業を始めよう」という村瀬瀬氏の考え方は興味深い。しかも、それは「他人がやらないことをやる」ということではない。「他人がやらないことはうまくいかない」と言う。

このように表現すると常識の裏をかいているようにも思えるが、顧客が求める商品をひたすら開発していくという、きわめて真っ直ぐなビジネスをしている経営者だという印象を受けた。普通のビジネスの視点が不足していた交通業界に、普通のビジネスの視点を持ち込んだ先駆者だったことが、最大の成功要因だったのだろう。

しかし、交通業界の側から見れば、やはり村瀬氏は常識から外れた経営者だったのかもしれない。「業界の常識は、業界外から見れば非常識」ということがまだ残っていれば、そこにビジネスチャンスがあるに違いない。

村瀬茂高(むらせ・しげたか)WILLER〔株〕代表取締役
1963年、愛知県生まれ。94年、〔株〕西日本ツアーズ(現・WILLER TRAVEL〔株〕)を設立、代表取締役に就任。2005年、WILLER ALLIANCE〔株〕を設立、代表取締役に就任。06年、高速バス『WILLER EXPRESS』事業を開始。14年、WILLER TRAINS〔株〕を設立。15年、第二種鉄道事業者として京都丹後鉄道の運行を開始。17年、WILLER ALLIANCE〔株〕からWILLER〔株〕に社名変更。(写真撮影:まるやゆういち)(『The 21 online』2017年04月25日公開)

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