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「エアビーアンドビー」の独自すぎる企業文化とは?(上)

単なる貸し借りから「体験」の提供へ

エアビーアンドビー,Airbnb,企業文化
エアビーアンドビーCEO ブライアン・チェスキー氏(写真提供Airbnb)

「ホテルは持たないけれども世界最大規模を誇るホテル業は?」

なぞなぞのように聞こえるかもしれないが、大真面目なこの質問の答えは「エアビーアンドビー(Airbnb)」だ。

エアビーアンドビーとは、世界最大の「空き部屋(短期レンタル)」のマーケットプレイス。基本コンセプトは、一軒家やアパートの中の空き部屋を貸したい人と、旅行やその他の理由で部屋を借りたい人のマッチングである。設立は2008年。9年目にして評価額300億ドル(3兆円)を誇ると言われ、191カ国65,000都市以上を対象市場とする、まさに「ネット時代の申し子」のようなビジネスである。

最近、エアビーアンドビーは、「空き部屋の貸し借り」だけでなく、新しいサービスとして「体験」の提供を始めた。「体験」とは地元に住む人がガイドを務め、その土地だから楽しめる自分の「こだわり」を披露するサービスだ。

たとえば東京なら、「生け花を習おう!」「キャラ弁をつくろう!」「書道を習おう!」「わさび狩りに行こう!」などがある。このようにして、エアビーアンドビーが提唱する「Belong Anywhere(暮らすように旅をしよう)」を具現化する、新しい旅のかたちを提案しているのだ。

「ネット・ビジネス」としてのエアビーアンドビーは、人が集う「プラットフォーム」を提供するだけであり、アセットやノウハウを持たない。質の高いサービス/体験を提供できるか否かは、部屋や「体験」を提供する「ホスト」の腕にかかっている。これが、エアビーアンドビーが、顧客との協業によってつくられるいわば「共創型ビジネス」であり、同社が戦略的フォーカスとして「コミュニティ」を第一に考えている理由である。

「企業文化をぶち壊すな!」

エアビーアンドビー、サンフランシスコ本社(写真提供ダイナ・サーチ、インク)

 

もうひとつ、エアビーアンドビーには有名な逸話がある。共同創業者でありCEOのブライアン・チェスキーが、シリコン・バレーの天才投資家ピーター・ティールから出資を受ける際にもらったアドバイス、「Don’t F**k up the Culture(企業文化をぶち壊すな)」を心に留め、設立当初から企業文化に徹底的にこだわり、それに「戦略的に」取り組んできた。

2015年には企業情報の投稿サイトglassdoor.com(グラスドア・ドット・コム)により、「最も働きたい会社」に選ばれ、グーグルやフェイスブックなどという有名企業からも、その企業文化に魅了されて転職してくる人が絶えないという、アメリカのIT/ネット・ビジネス業界を担う大手有名企業やスタートアップがひしめき合うサンフランシスコ・ベイエリアで最も話題の会社となっている。

今回、2015年にオープンしたばかりの新社屋を訪問し、同社の企業文化育成の立役者であるチップ・コンリー氏(戦略アドバイザー)とマーク・レヴィ氏(社員エクスペリエンス・グローバル担当責任者)のお話を聴くことができた。また、エアビーアンドビー・ジャパンの東京本社にも訪問し、代表取締役の田邉泰之氏にお話をうかがった。

チップ・コンリー氏(左)、マーク・レヴィ氏(中央)、石塚しのぶ(右) (写真提供ダイナ・サーチ、インク)

 

会社でも仕事でもなく「ムーブメント」

「エアビーアンドビーは、ただの会社でも、仕事でもない。『ムーブメント』なのです。あらゆる障壁を打ち崩し、誰もがどこにいても『ここが自分の居場所だ』と感じられるような世界をつくることを夢見て、エアビーアンドビーの社員たちは日々、このオフィスに来ている。それが、エアビーアンドビーが他社と一線を画す点なのです。」

同社は全世界19カ所にオフィスを持つが、グローバル規模で「社員エクスペリエンス」を取り仕切るマーク・レヴィ氏の一言が強烈に心に残った。

エアビーアンドビーの誕生は、共同創業者であるブライアン・チェスキーとジョー・ゲビアが、若きデザイナーとしてサンフランシスコのフラットで共同生活をしていた時まで遡る。2007年のことだ。

産業デザインの国際カンファレンスがサンフランシスコで行われた際に、リビングルームにエアベッドを3台置き、簡単な朝食つきの簡易宿泊施設として遠方からの参加者に提供するというアイデアを二人は思いついた。ブログで宣伝を出したところ、一人あたり80ドルのリスティングに瞬く間に買い手が見つかり、これがエアビーアンドビーのビジネスの始まりだったという。

サンフランシスコの高い家賃に窮している二人の若者が始めたビジネスは、自分の家やアパートの中に「空き部屋」を持っている人と、旅行者など「滞在先」のニーズを持つ人たちがお互いを見つける「場(プラットフォーム)」を提供するものだった。しかし、ただのマッチングサイトと一線を画したのは、部屋を貸し出す人たちには、ただ単に追加の収入の機会を得るというよりは、他の土地からやってくる人たちと触れ合う機会を与え、また、部屋を借りる人にとっては、旅行者でいながら、まるでその土地に「暮らす」かのようなユニークで夢のある体験を提供するというビジョンだったのだ。

採用面接15回!?「コア・バリュー」へのこだわり

そのビジョンを実現するための決め手は「人」であると彼らは言う。

企業文化を定義するものとして四つの「コア・バリュー(中核となる価値観)」を定めているが、応募者の適性を判断するために、一般の採用面接の中心である「スキル・フィット(経歴・技能適性)」だけでなく、「カルチャー・フィット(文化適性)」に徹底的にこだわっている。「カルチャー・フィット」を判断するひとつの物差しとなるのが、会社の「コア・バリュー」を共有できる人であるか否かだ。

エアビーアンドビーが徹底的にこだわっている「採用」については、エアビーアンドビー・ジャパン、代表取締役の田邉さんが自身の体験を話してくれた。2013年に田邉さんが同社のシンガポール法人に入社した際、2カ月にわたり15人以上と面接を繰り返したという。それまで多くのグローバル企業で働いてきた田邉さんも「こんなに慎重に、手間と時間をかけた採用プロセスは経験したことがない」と心底驚いた。

それも初めのうちは経歴や技能を見るごく普通の採用面接だったのだが、そのうちにまるで友達と話をするようなスタイルの面接になってきた。

後にそれが「コア・バリュー面接」であったと田邉さんは知るのだが、「会社のビジョンを共有し、一緒に働けるような『人間性』を持った人なのか」どうかを見極めるための面接だったのだ。当時の社員数は世界中で600人程度。最後は必ず創業者の一人が面接をすることになっており、田邉さんはCEOのブライアン・チェスキーと面談した。

「会社を拡張するにあたって、決して『スピード』を重視するのではなく、『同じ価値観を共有できる、会社の核となる人材を見つける』ことに創業者たちの熱意と意思が注がれていたのです。だからこそ、今は、そうした『コア・バリュー』を体現する人たちがインフルエンサーとなり、企業文化を育み、維持する力となっていると感じます」と田邉さんは語る。

エアビーアンドビー・ジャパン代表取締役 田邉泰之氏(写真提供Airbnb)

 

社員数3,000人超の会社となった今ではさすがに15回というわけにはいかないが、少なくとも2、3回のコア・バリュー面接を通し「カルチャー・フィット」を徹底している。本社の特別な研修を受けた人だけが「コア・バリュー面接官」になれるそうだ。

それも、たとえば日本法人で採用を行う場合でも、日本の面接官だけでなく、シンガポール法人の面接官やその他のオフィスの面接官も参加し、視点が偏らないように努めているという。191カ国で営業展開するグローバル企業らしい配慮だと感服させられた。

社員一人ひとりが発信者

いかに企業文化を重視している会社でも、コア・バリューの定義から数年が経つと「中だるみ」が生じてくるものだ。企業文化の「創成期」に直接関わった人たちに対して、「お膳立てされた」文化の中に入ってきた人たちの数が増え、社内に温度差が生じてくる。企業文化の危機だ。

熱狂的なファンを持つことで知られる米ザッポスのような、優れた企業文化で知られる会社でも、そのような危機を経てきた。ましてや、エアビーアンドビーのように短期間で急速な成長を遂げてきた会社は、どのような困難に直面してきたのだろうか。企業文化を「新鮮に」保つためにいったいどのような工夫がされているのだろう。

「企業文化に対する私たちのアプローチは『社員一人ひとりが率先する』ことです」

社員一人ひとりのコミットメント・レベルを、「自分こそがエアビーアンドビーの企業文化の発信者だ」と考えるまでに育むこと、これがエアビーアンドビーが目指しているところなのだという。

会社の日々の生活に「企業文化やコア・バリューが息づく」ようにする、そんな環境をつくる仕事を任せられた「グラウンド・コントロール」と呼ばれる人たちがいる。

エアビーアンドビーの社内の「用語」の多くは航空用語を借りたものになっているが、「グラウンド・コントロール」は管制塔。レヴィ氏が率いる従業員エクスペリエンス担当部門に所属し、職場環境や社内コミュニケーション、報奨、誕生日や入社記念日などのお祝いごとを取り仕切る。サンフランシスコの本社には10人程度の「グラウンド・コントロール」チームが、そして、世界19カ所にある各オフィスにも、少なくとも一人は「グラウンド・コントロール」担当者がいるそうだ。

また、新しいオフィスをオープンする際には、必ず「ランディング・チーム(着陸チーム)」と呼ばれる立ち上げチームが結成される。このチームの使命は新たなオフィスにエアビーアンドビーの企業文化を移植することだ。

チーム・メンバーは異なる機能分野から抜擢され、それぞれ異なる職を持っているが、立ち上げ期間には新しいオフィスに配属され、オフィス内の物理的な環境を整えたり、地元チームの採用面接を行なったりする。一定の期間が終わり、新規オフィスの状況が落ち着いたら、ランディング・チームはそのオフィスの日々の運営を担うリーダーシップ・チームに引き継ぎをし、元の部署・ロケーションに戻る。

新規オフィスが存在する国や市場の文化や慣習に敏感でありながら、エアビーアンドビーの企業文化を熟知した人が抜擢され、「ランディング・チーム」として活躍するそうだ。たとえば、中国にオフィスをオープンするのであれば、アメリカの大学を卒業し、アメリカ国内のエアビーアンドビーで働いたことのある中国人社員が抜擢されて「ランディング・チーム」として送り込まれるといったようにだ。

誕生日や記念日まで「共有」

社員が率先して企業文化/コア・バリューを守り立てていくという姿勢は、社内イントラネットの活用によるところも大きいようだ。

社員数が多くなり、社内の全員がお互いを「知る」ことが難しくなってきたり、また、地域的に分散されていて社員間の「触れ合い」が難しくなってきた時に、企業文化育成/維持の道具として社内イントラネットが導入されることがよくある。

エアビーアンドビーでは、イントラネットで社員の誕生日や入社記念日などの「お知らせ」をしたり、また、各社員の「プロフィール・ページ」を設けて、世界中の社員が地域の障壁を超えて、所属部門・部署や職種にかかわらず交流できるようにしている。イントラネット上の掲示板は、社員同士が情報交換をしたり、イベント告知をしたりなどといったことにも使われるが、会社の中の振る舞いについて注意を促したりするのにも使われている。

使い終わった食器が公共のスペースに放置されている写真と共に「自分の後始末は自分でしましょう!」などと呼びかける掲示があるそうだ。これは別に社内に風紀委員がいるのではなく、一般社員が気づいて自発的に呼びかけているのだ。コア・バリューの「ホストであれ」――触れ合う人を皆「ゲスト」と捉えて、「みんなの居場所」をつくるように振舞おう――ということを実践しているということだ。

(5月30日公開予定の下に続く)

石塚しのぶ(いしづか・しのぶ)日米間ビジネス・コンサルタント/ダイナ・サーチ、インク代表
南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で 経験を積んだあと、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイ ナ・サーチ、インク(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに 設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。近年は、ソーシャル・メディア時代に対応する経営革新手法として、「コア・バリュー経営」を提唱。執筆・講演なども精力的にこなしている。
主な著書に、『アメリカで「小さいのに偉大だ! 」といわれる企業の、シンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡改訂版~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る~コア・バリュー経営~』(東京図書出版)など(『The 21 online』2017年05月29日公開)

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