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<連載>中国人エリートの「グレーゾーン」での戦い方・第6回 「精神論」は通用しない!中国人は「仕組み」で動く

日本人がやりがちな「大きなお世話」

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(写真=The 21 online)

 

中国でビジネスに携わる日本人がよく犯す失敗が「中国人に正しい考え方を教えてあげよう」という余計なお世話です。

そういう日本人の多くは、よかれと思ってやっていると思うのですが、「人の考え方を変える」という精神論はグローバルビジネスではなかなか通用しません。精神論というキレイで高尚な方法ではなく、インセンティブ(損得)で人の行動を変える……という泥臭い方法に考え方をシフトするべきなのです。

多くの人が(自分たちの損得を考えると)自然とこちらの考える通りの行動を行うような仕組み。個別に言って聞かせて考え方を改めさせる……という非効率なやり方ではなく、全体の7~8割に効くルールを設定するほうがうまくいくのです。

不正を激減させた習近平のキャンペーン

一昔前は、中国では不正行為が当たり前でした。役人が自分の地位や権限を利用して不正に稼ぐことや、企業の調達担当者が取引先からキックバックをもらうことは、商売の潤滑油であり必要悪だと考えるほうが普通でした。

この状況で「不正は悪いこと」「コンプライアンスを守るのが当たり前」と精神論を何回唱えても不正は減りませんでしたが、習近平が腐敗撲滅キャンペーンでハエだけでなく虎も叩いて「不正を行うと大変なことになるよ」という強烈なメッセージを送ると、自然と不正をしなくなるようになるのです(それでもゼロにはなりません・笑)。

大変なことになるリスクを覚悟して不正をやるよりも、真面目にコツコツ頑張ったほうが得だと思わせることで、個人個人が自分の判断で、こちらの思う通りの行動を自然に取るように仕向けることが重要なのです。

日本と中国では「公平感」の捉え方が違う

このような「自然とそうなる仕組み」を作る上で重要なことが3つあります。

1つ目が「公平感」を担保することです。しかも、日本人が考える公平感ではなく、その仕組みで自然と動いてほしいターゲット層が考える公平感を担保することがポイントです。

中国全土に展開するドラックストアチェーンの「ワトソンズ」では、店舗で働くメンバーに月毎にボーナスを配っています。月店舗売上が予算や昨対比の80%を超えたら1人50元、90%を超えたら1人100元のように、月単位の店舗成績に基づいてボーナスがもらえる仕組みです。

この仕組みの中でポイントは、月ボーナスの金額が「一般スタッフも店長も同額」ということです。普通に考えると、役職が異なる店長と一般スタッフは月ボーナスの金額に差をつけてもいいような気がします。しかし、店長のボーナス金額を一般スタッフよりも高く設定すると、「なぜ我々スタッフが頑張って結果を出しているのに、結果に貢献していない(ように見える)店長を儲けさせなければならないのか」という不平不満が出て、一番頑張って欲しい一般スタッフのモチベーションが上がらないからです。

月ボーナスの金額を役職にかかわらず同額にすることで、「よし、みんなで一緒に頑張りましょう」となるわけです(当然それだけだと店長に不満が出るので、店長には年間ボーナスでうまく処遇をします)。

半年に1回のボーナスでは間延びする!

2つ目は「短期間で回す」ということです。ワトソンズの例もそうですが、店員へのボーナスは年単位、半年単位だとだらけるので、「月単位」でやるのがいいということです。

中国では、買い物の決済は現金やカードではなく支付宝や微信payなどの電子マネーの利用が増えていますが、その利用率向上に一役買っているのが、電子マネーで決済した直後にスマホ上に出てくる「くじ引き」です。

1日1回、支付宝や微信payで代金を支払うと、このくじ引きで1元未満のランダムに決まる金額を割引ポイントとしてもらえます。この割引ポイントは、同じ週内に同じ支払方法(支付宝や微信pay)で払った場合に自動的に適用されるので、別の店舗、商品を割引価格で消費できることになります。この場合は「週サイクル」で回していることになります。

このように仕組みごとに適正な(短期の)期間を設定して、自然と回していくことが重要なのです。

「運も実力のうち」……青島ビールの評価制度

最後の3つ目は(実はこれが一番重要ですが)、「自然にそうなる仕組み」を運用するためには、全体最適を優先し、「例外的な個別最適を捨てる」必要があるということです。

中国大手ビール会社、青島ビールでは、各地域別の営業責任者を、売上・利益・市場シェアなどの統一KPIで評価しています。上位者から順番に並べて、上位グループは昇格、下位グループは降格(またはクビ)という評価制度を取っているそうです。

地域ごとに事業規模や競合状況が違うのは当然であり、全地域の営業責任者を同一基準で評価すると不平等になる……と日本人であれば考えると思いますが、そういう個別条件は全て無視し、統一基準だけで評価するそうです。結果が出しやすい地域に配属されるかどうかも含めて、全て実力という考え方をするのです。
もちろん、この評価制度だと、潜在能力が高い人も運が悪ければクビにせざるを得ない可能性があります。しかし青島ビールは「その副作用を飲んででも、ある意味公平な統一KPIを例外なく適用したほうが経営効率がよい」と判断しているようです。

自然とそうなる仕組みを正しく運用するためには、「泣いて馬謖を切る」必要があるということだと思います。

このように、人によって価値観のバラツキのある中国やグローバル市場では、精神論ではなく「自然にそうなる仕組み」を作ることで、まぐれの100点満点ではなく、安定して70点を効率的に取ることが重要なのです。この「自然とそうなる仕組み」は、海外だけでなく、今後カオス度合いが高まる可能性の高い日本国内でも、有効なオプションになると個人的には思っています。

江口征男(えぐち・まさお)GML上海総経理
Tuck (Dartmouth) MBA。横浜国立大学大学院工学研究科修了。外資系経営コンサルティング会社、子供服アパレル会社を経て2007年より中国上海移住。現在上海にて経営コンサルティング会社2社(GML上海、Y&E)を経営。著書に『中国13億人を相手に商売する方法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。中国ビジネスに関する講演、執筆多数。(『The 21 online』2017年08月23日公開)

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