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親族外事業承継における「適正な」財務諸表の重要性

最近では、ニュースや新聞等で大企業の不正会計問題をよく目にします。ちょっと前ではカネボウ、オリンパス、そして東芝や富士ゼロックスと、日本を代表する上場会社において次々と会計不祥事が発生しています。

これらの会社はいずれも超大企業であり社会に与える影響が甚大であることから大きく報道されていますが、それ以外の上場企業でも不正会計や重大な会計処理の誤りに関する適時開示が増えているように思われます。

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(写真=PIXTA)

 

上場企業は、監査法人から監査を受けなくてはなりません。そして、監査を受けた結果、自分たちが会計基準に準拠して適正に財務諸表を作成している旨の意見を監査法人からもらわなくてはなりません。もしその意見をもらえなかったら、上場を維持することが非常に困難となります。

また、不適切な財務諸表を利用して投資した結果、損害を負ってしまった投資家から、損害賠償請求を受ける可能性も出てきます。そのため、上場会社は、コストをかけてでも適切な財務諸表を作らなければならない義務や動機があり、これらを守ることができなかった上場会社は大きなペナルティを負うことになります。

一方で、未上場の会社はどうでしょうか。未上場の会社が財務諸表を提出する先というのは、一般的には税務署と銀行くらいでしょうか。しかし税務署に対しては適切な税務計算を行い適切な納税を実施することが一義的に重要視されるため、適正な財務諸表を作成すること自体に重きが置かれているわけではないかもしれません。

また、銀行に対しては融資の実行等で適正な財務諸表を提出する必要がありますが、監査法人のように人も時間もかけて帳簿をチェックするわけではないので、上場会社ほどの緊張感はないかもしれません。そのため、未上場の会社は、上場会社と比較すると、適正な財務諸表を作成する義務や動機が少ないとも言えます。

しかし、最近では未上場の会社も財務諸表をしっかりとチェックされる局面が増えてきています。それは「親族外事業承継」をする時です。

昨今、中小企業の後継者難が大きな社会問題となっており、利益がしっかりと出せている会社、伝統や技術がある会社が、後継者難を理由として廃業していくといったケースが増えてきています。これは日本にとって看過できない損失で、この問題を解決するために、中小企業でも親族外事業承継(いわゆるM&A)が注目されています。

この「親族外事業承継」とは、第三者の企業または個人に、自分の会社を売却することを意味します。すなわち、外部の第三者(買い手)が承継対象の会社(対象会社)をオーナー(売り手)から買うことになります。

買い手は対象会社を買いたいと思っていますが、いくらで買えばよいのか、どのようなリスクがあるのか、外部者なのでまったくわかりません。そのため、買い手は、対象会社の(特に計数面の)情報を把握する上で、過去からさかのぼって対象会社の財務諸表をしっかりとチェックします。このプロセスを一般的にはデューディリジェンス(DD)と言います。

買い手は通常DDをする場合、財務面では公認会計士を専門家としてアサインします。ほぼ全ての公認会計士は、どこかの時点で監査法人に所属し上場会社に対して監査業務を行っていたので、上場会社の財務諸表を基準として、対象会社の財務諸表をチェックします。

買い手が上場企業や投資ファンドであれば、売却後は対象会社も買い手グループの一員として監査法人の監査を受けることになるので、買い手としてもしっかりとチェックしなければならないのです。

また、買い手は適切な会計基準に基づいた財務諸表をベースとして、株式の価値を決めます。そのため、株式の価値を決める上でも、適正な財務諸表が必要となります。

いったんDDプロセスに入ると、売り手と対象会社は大変です。これまでは財務諸表を作成する上で上場会社ほどの水準を求められていなかった中で、突然、それに近い基準でチェックしてくるのです。

大量の資料開示請求と大量の質問を浴びせられ、現場はパンクします。挙句、色々と問題が出てきた結果、当初と比べ買収金額の提示額を大幅に下げられたり、M&A自体が破談となってしまうといったことも出てきます。

そのため、もし「親族外事業承継」を検討する場合は、自社の財務諸表や資料管理状況がこのDDに耐えられる水準なのか、についても留意する必要があります。もしちょっと厳しいな、と判断する場合は、事前に公認会計士等の専門家に相談して、DDに耐えられる環境を作っておくことをお勧めします。

この環境作りには一定のコストがかかりますが、買い手との交渉で満足のいく結果を得ることと比較すると、そこまで大きなものではないはずです。是非とも、ご一考ください。

◆文:一般社団法人虎ノ門会 理事/公認会計士 門澤 慎

●プロフィール

(写真=BigLife21)

門澤 慎(もんざわ・しん)氏…1979年10月大阪府生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、マツダ株式会社、国内系監査法人にて経理・法定監査業務、有限責任監査法人トーマツにてM&Aアドバイザリー業務、財務デューデリジェンス業務に従事した後、株式会社プルータス・コンサルティングに入社。プルータス・コンサルティングでは組織再編・資本政策に係るアドバイザリー業務、株式価値評価業務を担当。現在は、一般社団法人虎ノ門会(理事)、株式会社プルータスM&Aアドバイザリー(エグゼクティブダイレクター)にて M&Aアドバイザリー業務を行いつつ、一部上場会社の財務アドバイザーや社外取締役に従事する。

著書に「企業価値評価の実務Q&A」(共著、中央経済社)、旬刊経理情報No1323「PPAにおける機械設備評価のポイント」(共著)。公認会計士。日本公認会計士協会 岡本基金 中央財経大学派遣メンバー。

株式会社プルータスM&Aアドバイザリー
東京都千代田区霞が関3-2-5 霞が関ビルディング30階
電話:03-3591-8123
http://www.plutuscon.jp/

事業承継のスペシャリスト集団「虎ノ門会」
http://www.toranomon-kai.com/
【ご連絡先】
monzawa@plutusmaad.jp
門澤まで

2017年8月号の記事より(提供:Biglife 21)

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