Home » インタビュー » ラクスル代表が語る「競争しなくても勝てる方法」【後編】

ラクスル代表が語る「競争しなくても勝てる方法」【後編】

【連載 経営トップの挑戦】第23回 松本恭攝 ラクスル[株]代表取締役

松本恭攝,ラクスル,勝てる方法
(写真=The 21 online)

 

日本は世界で一番「成功しやすい」国である

勝てる見込みのない戦いをするよりも、戦わずして勝つ方法を探し出すクールな経営者、松本氏。しかし【前編】で紹介した学生時代のエピソードどおり、掲げた目標の達成のためには努力を惜しまず取り組む情熱もあわせもっている。松本氏がラクスルで成功できたのはまさに、この「冷静と情熱のバランス」ゆえだろう。【後編】では、経営者となって以降の出来事や、今、変えたいと思っている「日本の仕組み」についてお話をうかがった。

衰退産業が主戦場でも、改革がコンセプトなら価値になる

――常に冷静に状況を分析・判断され、的確に未来を予測される松本さんですが、そんな松本さんが起業後、予想外に苦労された難関などはあったのでしょうか。

松本 難しかったのは「人と組織」ですね。最初の1年半は基本的に私1人でやっていて、あとは自分の仕事と掛け持ちで手伝ってくれる人たちがいたのですが、いよいよ正式にラクスルに参画してもらうというタイミングで重要な人物が辞めてしまうなど、いわゆる「ベンチャーあるある」をいろいろと体験しました。人や組織をまとめ、同じベクトルに向かって進むことの難しさを痛感しましたね。

――今では就職希望者も増え、ユニークで優秀な人材がたくさん在籍して、組織運営面でも注目される御社ですが、御社のどんなところを魅力に感じ、人が集まってくるのでしょうか? 印刷業界という点だけ切り取ると、成長産業とは言えませんが。

松本 「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンが求心力になっています。このビジョンは創業前から考えていたもので、創業日には確立していました。これが会社の原点であり、今も変わっていない当社の指針です。

印刷業界は日本の多くの産業の典型で、とにかく非効率。時代が変わっているのに、明治や戦前戦後にできた産業構造や会社の仕組み、ビジネスモデルがほとんど変わっていませんから、厳しくなるのも当然です。しかし、課題のある大きな業界だからこそ、「ここを変えて、もっといい世界を創ろう」というメッセージは、デジタルネイティブ世代の人たちにも刺さっていると感じます。

――創業前からそれだけパワフルでブレないビジョンを描けた理由はあるのでしょうか?

松本 ビジョンを掲げる重要性は、学生時代から感じていました。私は大学で日中韓の学生が主催する「国際ビジネスコンテストOVAL」を立ち上げるサークルに入ったのですが、このコンテストの第2回を北京で開催しようとしたところ、日中関係が悪化したタイミングと重なったことで、多くの大人たちから「実現は難しい」「やめたほうがいい」とアドバイスを受けたのです。アドバイスをくれた人は外務省の官僚など、皆、賢い人たちでした。

しかし、私たち学生には、北京でイベントを実施するビジョンが描けていた。結果、外交関係をよそに日中韓の学生たちは協力し、北京でのコンテストを実現することができたのです。

何もないところにビジョンが生まれる。するとそこへ人が集まってきて、コトが動き出す。それを体感したのです。だから、成し遂げたい世界があるなら、まずそれを言葉にすることから、すべては始まると私は考えています。ビジョンは、自分のモチベーションを保つためにも、人を集め動かすためにも、絶対に必要です。

(写真=The 21 online)

 

デジタルネイティブ世代の強みとは

――旧態依然とした業界にITでメスを入れられる松本さんですが、もともとネットに明るかったのですか?

松本 そうでもありません。ネットについて言えば、普通のユーザーでした。「インターネットで世界が変わる/ITを使って世界を変える」ということに興味を持ったきっかけは、学生時代の読書体験とネット体験にあると言えると思います。

まず、ベストセラーになった『フラット化する世界』(トーマス・フリードマン著)を読んで、ネットによって世界が狭くなっていく様に圧倒されました。この本では米国企業がフラット化する世界にどのように適合し、イノベーションを起こしたかが書かれていましたが、それを読んで「こういう変化ってもっと色々なところで起こせるんじゃないか?」と思ったのです。

それから、カナダ留学時に「セカンドライフ(仮想空間で遊ぶオンラインゲーム)」を知って衝撃を受けました。「バーチャル空間にこんなにたくさん人がいるなんて」と驚くと同時に、確実に世界が変わっていくのを感じました。その頃、私はミクシイやグリー(当時はグリーもSNSをやっていた)を利用していましたが、フェイスブックもこの頃に知って、また驚きました。そしてカナダを出てシリコンバレーに行ったとき、そうしたサービスを作っている人たちと会い、インターネットの可能性を確信するようになったのです。

――学部も商学部で、ことさらネットに強かったわけでもなく、あくまでユーザーだった松本さんが「×IT」でさまざまな業界に革命を起こしている。なぜ、そんなことが可能なのですか?

松本 インターネットやITの力を目の当たりにしつつ、どうやってビジネスに絡めるのかわからない。それは多くのかたが感じていることですが、皆さん、ユーザーとしては普通にスマホでアプリを使っていますよね。しかし、ビジネスにそれを取り込もうとしない。でも、ここから先はもう、取り込まざるを得ないという段階に入っています。

たとえば、印刷業界を筆頭に、今ある大企業のほとんどは明治や昭和にできて、既に構造的な限界を迎えています。物流は「これ以上運べない」し、いろいろな業界で「過労死」する人が出ています。物流は、要はここまでネット通販が伸びてモノを運ぶ量が増えると思っていなかったわけです。また過労死者が出る会社は、労務問題だけではなく、ビジネスモデル含め、会社・業界自体が現在の時代に対応できていないことに真因があると私は見ています。

さまざまな仕組みを今~未来の時代にフィットさせるためには、ネットやITを無視するという選択肢はありえません。そしてネットやITを使った改革を実行できるのは、私たちデジタルネイティブ世代に他なりません。

(写真=The 21 online)

 

リーダーの高齢化は変革を遅らせる

――50年前、100年前にできたビジネスモデルや産業を変革する主役は、若者であるということですね。

松本 企業のITシステムひとつとっても、20年も前に投資して作られた基幹システムに今、手を焼いている会社は少なくないはず。今となっては非効率のかたまりだから、当然です。でも、「ずっとこれでやってきた」「自分たちはこのやり方なんだ」という歴史を背負ってしまっているため、簡単には捨てられないし、変えられない。

キツい言い方になりますが、これは会社の社長や国のリーダーについても同じことが言えます。日本の社長の平均年齢は昨年、61.9歳。少なくとも5年連続で上昇しています。ちなみに30代以下の社長の割合は5年連続で減少しています。しかし、60代の社長が過去の10~30年をどれだけ上手く舵取りできていたとしても、次の10~30年を描き導けるかはまったく別の話です。

今の時代、60代の人々もユーザーとしての行動は変わっているはず。スマホもタブレットも使うでしょう。しかし、経営者としてはなかなかそうできていないのが現実です。産業の仕組みそのものを変えていくためには、百戦錬磨の60代ではなく、デジタルネイティブの30代、あるいは20代でなければ実現できないと、私は思っています。

私たち30代の“過去”は、ミクシィであり、FBであり、セカンドライフです。今、迎えている未来はこうした過去の先にあるものなので、自分たちの世代にしか描けない部分は多くあると思います。

――そのとおり、と膝を打つ人が多い一方で、当事者の60代や50代の人たちからは悲鳴や怒りの声が聞こえてきそうです。普段、そうした世代の人々とお話しされるときは、どのように表現されているのですか?

松本 このまま話しています。経営者であっても、大企業トップ相手のセミナーでも、同じように話します。生意気だと思われているでしょうが、皆さん行き詰まりを感じているのは事実なので、多くの方はこれが現実であることを受け入れられます。

現在、会社では、過去頑張った人が功労賞的に上に行くところが多いと思います。しかし、50代、60代にならないと経営できないなどという事実はありませんから、これがベストのリーダーの選び方とは言えないはずです。むしろ、年齢を重ねすぎては経営できなくなるのが、今という時代だと思います。

ITビッグ5、すなわちマイクロソフト、アップル、アマゾン、グーグル、そしてフェイスブック、5社の時価総額を足し合わせると英国のGDPをも超えるという報道は耳に新しいですが、これらの企業の社長を見てみると、30~40代は当たり前、一番年上でも57歳です。前述のとおり、日本の企業トップの平均年齢は60代。70代以上も増加しています。これで20年後が描けるでしょうか? 渋沢栄一が33歳で第一銀行の頭取になったように、かつては日本も30代が活躍していました。

一概に年齢ですべてが決まるなどとは言いませんし、年を重ねても若い発想を持っているかたはたくさんいます。しかしそれ以前に、「新しい時代は若い人が創る」というのは、ごく自然なことではないでしょうか。若い人たちが自分の感性で新しい世界を描き、創っていかないと、今きしみを生じている産業や組織は、音を立てて崩れてしまうかもしれません。日本は今、そんな危機的状況にあるのです。

だからラクスルは、その一端を担うため、「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」を掲げ、新しい世界観やテクノロジーの浸透、人事の仕組み、ITの仕組み、ビジネスの仕組みなど、あらゆる構造を変えていこうとしています。私たちは、義務感を持ってそこに取り組んでいます。

(写真=The 21 online)

 

日本は挑戦者が少ない「世界で最も成功しやすい場所」

――印刷のラクスル、運送のハコベル(ラクスル同様、ドライバーの空き時間を利用したシェアリングエコノミーサービス)など、サービス自体は海外展開されていますが、松本さん自身はシリコンバレーで一旗あげようとか、日本に見切りをつけて海外市場を求めようといったお考えはないのですか?

松本 私は絶対に日本でやります。なぜなら、日本が世界で最も「成功しやすい場所」だからです。海外で勝負するのは、本当に大変です。たとえば先日、インドのスタートアップのCEO(27歳)と話をしていたとき、ハコベルの同業他社数の話になりました。「日本ではこういったサービスを展開しているのはハコベルだけだけど、インドはどうなの?」と言うと、おそるべき返答がありました。「インドでは、まったく同じ内容だと106社、近しい領域だと1,500社ある」というのです。

これが世界です。中国では何万人もの天才たちが人生をかけてビジネスをやっていますし、シリコンバレーでは世界で最も優秀な人たちが集まって起業し、しのぎを削っています。「競争せずに勝つ」がコンセプトの私からすれば、そうしたところで戦うのは絶対にありえません(笑)

日本は、変革者やチャレンジャーが極端に少ない。それは一方で憂慮すべきことですが、私や当社、その他、挑戦しようとする人々にとっては無限の可能性があると言えます。だから今後も、この日本で、新たな業界に踏み込んでいくつもりです。

――今、変革しようとしている分野はどんなところか、教えていただけますか?

松本 企業に関することで言えば、なんといっても人事の高齢化が大きな問題だと捉えています。そのために私は指名委員会を強制化するべきだと考えており、それを国に対しても提言しています。

どういうことかと言うと、多くの企業では社長が人事権を持っているわけですが、これだと社内政治が発生します。社内政治は何も生み出しません。しかし、社長は過去に頑張った人や自分の気に入っている部下を評価しますから、社長が人事権を持っている以上、社内政治はなくならないでしょう。

そこで、指名委員会です。指名委員会というのは、社長を指名する第三者委員会のことです。先だって東証で「社外取締役を2名以上に」というガバナンスコードができ、これも悪くはないのですが、実効性はそう高くありません。なぜなら社外取締役には、友達を呼んでしまいがちだからです。

本当に企業を前進させるトップを選ぶのなら、指名委員会など第三者が社長や役員を決めたほうがいい。こうなると社長レースが一変します。社長に気に入られることではなく、新しいことをして、会社を前進させようとします。70歳の社長が60歳の社長を指名していては、企業も日本も変われません。

今後も、日本に数ある「課題を抱えた仕組み」に働きかけていきたいと思っています。「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」。このビジョンを掲げている以上、ラクスルの仕事がなくなることはないでしょう。

今後の快進撃にも注目

広い視野を持ち、産業や国の未来について淡々と語る松本氏。しかし、これだけ大きな話をしているにもかかわらず、その話しぶりから自己顕示欲や私利私欲のにおいがまったくしない。また、それだけの事を為そうとすれば必然、逆風もあるであろうに、そういった話はまったく出てこない。「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」――その信念の強さが伝わってくるインタビューだった。松本氏の話を聞いていると、変革とは「しなければならない大変なもの」ではなく、「着実にクリアしていける面白い課題」のように思えてくる。印刷業界の変革からスタートしたラクスルが今後、どんな分野でどんな革新を実現していくのか、目が離せない。

松本恭攝(まつもと・やすかね)ラクスル[株]代表取締役
1984年、富山県生まれ。2008年、慶應義塾大学商学部卒業、A.T.カーニー入社。コスト削減プロジェクトを担当したのち、09年、「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」を企業理念にラクスル[株]を設立。印刷価格の比較サイトを経て、CMでもおなじみの印刷ECサイト「ラクスル」を立ち上げた。15年には物流業界を変革すべく、各運送会社の非稼働時間で配送するネット運送・配送サービス「ハコベル」をスタート。現在も既存の産業構造を改善するべく、幅広い視野で「仕組み変革」に邁進している。《写真撮影:山口結子》(『The 21 online』2017年08月31日公開)

【編集部のオススメ記事】
ラクスル代表が語る「競争しなくても勝てる方法」【前編】
株式会社スープストックトーキョー/世の中の体温を上げる仕事 スープを食べる20分から生まれるドラマ
株式会社エヌリンクス/代表取締役社長 栗林憲介氏に聞く企業物語 「まずは、一歩踏み出すこと 」
株式会社ブロードリンク/使命は人と社会と地球を豊かにすること 「活業」で世界ナンバーワン企業を目指す
日本のセルフストレージビジネスの可能性/株式会社キュラーズ代表、スポーン氏に聞く企業物語