Home » 経営効率化 » 無印良品を変えた、資料のシンプル化&見える化とは? 松井忠三(良品計画前会長)

無印良品を変えた、資料のシンプル化&見える化とは? 松井忠三(良品計画前会長)

A4サイズの提案書&共有化できるマニュアルで実行力アップ!

松井忠三,良品計画,無印良品,資料のシンプル化
(写真=The 21 online)

 

かつて、50~100ページにもおよぶ社内向け提案書を作っていたという無印良品。紙の量が実行力と反比例していることが問題であると、社長に就任した松井忠三氏は資料削減を含めた改革を断行した。無印良品が行なった改革とは。そして、その結果たどり着いた「良い資料」とは。

好調な企業ほど資料はシンプルだった!

2001年に㈱良品計画の社長に就任した松井忠三氏は、当時不振にあえいでいた同社の組織改革を断行し、数年で見事な復活へと導いた。改革の主眼は「実行力」の強化──常に行動し、試行錯誤し、改善を繰り返せる「強い現場」を作ることにあったと松井氏は語る。その考え方は、同社の「資料」の作り方をも一変させるものだった。

「当時の良品計画、そして同社を擁するセゾングループには、『紙が多い』という企業文化が根づいていました。私も、出向前に在籍していた西友では日々何10枚、ときに100枚以上の資料を作っていました。トップから求められる『新規性と緻密なロジックを併せ持つ提案』を出すための作業でしたが──良品計画に来て、それこそが不振の原因だ、と発見するに至りました」

そのきっかけは、異業種組織との交流にあったという。

「互いにどのような書類フォーマットを使っているのか、という情報交換を行なった際、好調な企業の社内提案書は2~3枚程度しかないと知って驚きました。そして、シンプルな書類であればあるほど現場への指示が的確になることもわかったのです」

社内では「常識」だった長大な提案書には、市況分析から導き出される長期の戦略構想などが綿々とつづられてはいたが、現場の具体的な行動へと反映できる要素は皆無だった。

「無印良品の各店舗にもそれらの資料が送られていましたが、長いばかりで役に立たない、したがって読まれない。実行に落とし込めない戦略作りのために、私たちは人員と時間を使ってコストを空費していたのです」

紙の量と実行力は反比例する──この考えのもと、松井氏は「商品説明用資料などを除き、会議に出す社内提案書はA4の用紙1枚に収まる量で作ること」というルールを作った。

「5W1Hと費用対効果だけを記し、あとは口頭で説明すべし、と社員たちに伝えました。慣れるまでは皆、戸惑ったようです。裏表両面にびっしり書いたり、A3に書いて縮小コピーしたりと悪あがきする者も(笑)。とはいえ実践を重ねるうち、作り手の労力も少なく、受け取り手も素早く理解できるメリットを実感できたようで、次第に浸透していきました」

その後、さらに紙の量を減らすためにペーパーレス化も推進。会議資料はタブレット画面や映写機での確認を基本にすることで、配布のためのコピーなどに伴う雑務もカットできた。

シンプル化と並行して「増やした」資料とは?

こうしたシンプル化を進める一方で、あえて増やした資料もある。それは、「業務の見える化」を図るために作成された共有マニュアル。資料やノウハウの個人所有により属人化されていた業務を全社員で共有できるようにしたのだ。

「手元に書類を保存する社員が多いのは問題だ、と常々感じていました。机に山積みにしたり、足元に段ボール箱を置いて溜め込んだりしている書類はすべて、本人にしかわからない情報です。異動があれば、新しいスタッフは使い道がわからず、放置もしくは破棄するしかない。結果、前任者の知識と経験はすべてムダになります」

こうして進められたのが、「すべての業務の進め方を記した統一的資料」の作成だった。

「その資料は2種類あります。1つは本社で使う業務基準書。そして、もう1つは店舗で使用する『MUJIGRAM(ムジグラム)』です」

業務基準書には、大中小の項目で体系づけられたすべての業務が記されている。

「たとえば経理部の場合、目次に『決算(大項目)』→『団体決算整理(中項目)』→『給与仮払い(小項目)』と分類が記され、小項目のページを開けば仮払いに必要な作業が、パソコン操作の手順に至るまで細かに説明されています。

これらを各部で1冊、そして主管の『業務標準化委員会』で1冊ずつ保管。それ以外、個人単位で所有することは一切ありません。ちなみに、業務基準書はデジタルでなく紙が鉄則。いちいちパソコンを開くよりも冊子を見たほうが早いですから」

MUJIGRAMも、紙にプリントアウトされた分厚い冊子だ。「売り場作り」「商品管理」などテーマごとに作られた10数冊が、国内430店舗のすべてに配布される。

「新入社員は、これを読み込むのが最初の仕事。統一された仕事のやり方をいったん覚えてしまえば、どこに行っても同じやり方ですから、滞りなく業務を進められます。まさに『実行』ができるシステムです」

資料は「更新」し続けなければ意味がない

こうした細かい資料を作っている会社は他にもあるかもしれない。だが、それが死蔵されてしまっては意味がない。

無印良品では、業務基準書は3カ月に1回、MUJIGRAMは1カ月に1回、更新するのがルール。それらは、必要に応じて常に生まれ変わる、まさに“生きた資料”ともいえる。

「マニュアルは決して固定化させてはいけません。世の中の変化や、社員たちの『もっとこうすべき』というアイデアに応じて変更し続けてこそ有用性が継続されます。組織のベストプラクティスを絶えず見える化して標準化させるPDCAが必須です」

このPDCAを支えるのは、社員自身による変更提案だ。

「社員や店舗スタッフは随時、イントラネットに提案を書き込めるようになっています。その画面には『現在の問題点』と『それに基づく改善策』を書く欄があり、店舗を統括する課長がそれらを吟味して良いと思ったものを本部に送ります。そこで提案が通れば改訂へ。従業員自身が、業務改善の担い手なのです」

PDCAを回していくため、毎回多くの提案が出るよう促すことも大切だ。

「仕組みというものは、時が経てば慣れによって有名無実化し、元の木阿弥になりがちです。提案強化月間を設けたり、良い提案に表彰や昇給などで応えたりと、モチベーションを高める仕掛けは欠かせません」

紙を手元に置かない、という決まり事についても「元の木阿弥」を防止する仕組みを作っている。

「月に一度、『書類を捨てる日』を設けました。どれほど絞り込んでも、いつしか紙は増えるもの。実際、書類の廃棄日は毎回、本社だけでもトラック2台分の書類が出ていました」

定期的にこうした機会を持つことで、「ムダ資料」を作らない意識がそのつど喚起される。

「資料の作り方、使い方、維持の仕組み──これらは私が会長を退いた今も継続され、ムダなく、ブレることなく業務を実行する礎となっています」

松井忠三(まつい ただみつ)良品計画前会長、松井オフィス代表取締役社長
1949年静岡県生まれ。’73年東京教育大学(現・筑波大学)体育学部卒業後、西友ストアー(現・西友)に入社。’92年に良品計画へ異動。総務人事部長、無印良品事業部長を経て、初の減益を出した直後の2001年に社長に就任。組織風土改革によりわずか2年でV字回復を成し遂げ、’07年には過去最高売上高(当時)を達成した。’08年会長就任後も、組織の「仕組みづくり」に継続して取り組む。’15年5月に退任し名誉顧問に。著書に『覚悟さえ決めれば、たいていのことはできる』(サンマーク出版)、『無印良品の、人の育て方』(KADOKAWA)などがある。(取材・構成:林 加愛 写真撮影:長谷川博一)(『The 21 online』2017年11月号より)

【関連記事】
なぜ、中堅社員ほど、やる気を失うのか? 山本 寛(青山学院大学経営学部教授)
「専門家」紹介とフィンテック
最近工程内で起きている問題に関して
人材育成計画の作成中 工程手順を浸透させるのが難しい
デジタルデータの保存について