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業績をV字回復させた学研社長の「やる気」の出し方 宮原博昭(学研ホールディングス社長)

状況が悪いときこそ、明るい未来を想像する

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(写真=The 21 online)

 

売上げが下がり続ける経営危機の状態の中、火中の栗を拾う形で社長になった学研ホールディングスの宮原博昭氏。その後見事に業績をⅤ字回復させた。同社の柱である教育事業や出版事業のマーケットが縮小傾向にある中で、どのような戦略を取ってきたのか。何よりもまずは、社員のモチベーションを高めることを重視したという宮原氏にその方法について詳しくうかがった。《取材・構成=杉山直隆、写真撮影=まるやゆういち》

「まだ巻き返せる」と何度も訴え続けた

売上高がピーク時より半減する経営危機から、奇跡的なⅤ字回復を果たした学研ホールディングス。宮原博昭氏は経営がドン底状態だった2010年に社長に就任し、見事に復活へと導いた。どう立て直したのか。宮原氏は「いかに従業員のモチベーションを高めるかを第一に考えた」という。

「いくら緻密な戦略を立てても、従業員のモチベーションが上がらなければ、機能しません。外から社員を採用する余裕もないので、現有戦力のモチベーションを高めるしか方法はありませんでした。社員に底力があることはわかっていました。ゆえに、やる気が倍になったら、それだけで勝てるとも考えていました」

当時、従業員のモチベーションは著しく下がっていた。社長就任前には希望退職で人が大幅に減った上、残った人の賞与は大幅にカット。多くの社員が未来に不安を感じていた。そこで、最初に宮原氏が行なったのは、「明るい未来が訪れる可能性を見せること」だ。

「『コンテンツは日本一のものがたくさんあり、巻き返せる』。そのことを、全体ミーティングや社内報、社員との食事会など、ありとあらゆる場で話し続けました。能力はあるのですから、まずは自信を取り戻してほしかったのです。夢物語だけでなく、今後の戦略と共に、根拠のある形で伝えていきました。会社の問題点などの話もしましたが、最小限にとどめました」

その上で行なったのは、やる気のある人にチャンスを与えることだ。社員から新事業企画を募る「G‐1グランプリ」を実施。このプログラムから既に2社が起業している。また、未来の幹部を鍛える研修制度などを整え、若手や女性を積極的に登用した。

「ベッドのシーツは、1カ所を引っ張ると、他も引っ張り上げられていきますよね。このように、人材も、どこか1カ所を引っ張れば、他の人もついてくると考えていました」

成果を出した従業員は、しっかり褒めるようにした。

「『見える学力』と『見えない学力』という話があります。前者はその科目に関する知識や計算力などを指す一方、後者は『やりきる力』のような見えない能力を指します。結果を出すためには、この『見えない学力』が非常に重要なのですが、仕事も同じ。『表にあらわれない努力やプロセス』が仕事の成果を大きく左右します。そこを見つけてほめるようにしていました」

そうすれば、従業員は「自分の頑張りをしっかり見てもらえている」と感じ、さらにモチベーションを高めるわけだ。

(写真=The 21 online)

 

年上のエリート社員を動かすには?

もちろん、若手や女性ばかりが登用されるのは、ベテラン男性社員としては面白くないだろう。宮原氏は、そうした社員たちのモチベーションの維持にも心を配ったという。

「社長就任当時、私は51歳でした。役員だけでなく管理職でも、私より社歴も年齢も上の人はたくさんいました。さらに、13年前までは本社の正社員ではなく神戸で勤務地限定職に就いていて、当時、社内的にはあまり花形とは言いがたい教室事業を手がけてきました。エリート街道を歩んできた生え抜きの人たちは、私のような人間の命令など聞きたくないと思うのが本音でしょう」

しかし、ベテラン社員たちが行動しなければ会社は回らない。

「行動に移すまでには、『理解』して『納得』することが必要ですが、『納得』までいくのは非常に難しいことです。そこで、せめて『理解』だけでもしてもらおうと考えました」

そこで実践したのが、相手に合わせてアプローチの仕方を変えることだ。

「たとえば、1回だけ言うのか、3回かけて話すのか。1カ月ほど前から少しずつ話しておくのか。会議の終わりにジャブを入れるのか。外で食事しながら話すのか、食堂でコーヒーを飲みながら軽く話すのか……。どう話すかは、相手の性格に合わせて変えました。そうしないと、耳を閉ざしてしまい、理解すらしてもらえません」

また、ベテラン社員と話すときは、彼らの実績の中から良かったところを伝え、尊重する姿勢を見せた。

「一方で、失敗を指摘することはやめました。指摘すると、プライドが傷つけられ、『この人の下では働けない』と耳を閉ざすと考えたからです。気づくまでじっと待つようにしました」

これらを心がけたことで、宮原氏より年上の幹部や管理職も、宮原氏の話に耳を傾け、『納得』してくれたという。

「もちろん、全員に対してうまくいったわけではありませんが、手を変え品を変え、対話は続けていました。そうして全員に期待するスタンスを見せることが大切だと思っています」

憎しみから生まれる「やる気」は続かない

宮原氏自身は、常にモチベーションを高く持ち続けてきたのだろうか。

「社長に就任してからは、使命感から、モチベーションが下がることはまったくありません。しかし、若い頃はモチベーションが下がることもありました」

それは、前述した小学生向けの教室事業に携わっていたときのことだ。

「当時は、まだ力の弱い部署で安月給だし、発言権はゼロ。あるときは、事業を伸ばしたら、参考書の担当者から、『参考書が売れなくなる。邪魔するな』と言われる始末でした。辞表もこれまでに三回書きました。

それでも、一緒に頑張ってくれる教室の先生方やスタッフの努力に報いたくて、『いつか見返してやる』という思いで続けてきました」

もっとも、憎しみのパワーをモチベーションにしていたかというと、そうではない。心がけていたのは、「人を嫌いにならないこと」だ。

「好き嫌いばかり考えていると、仕事に身が入らなくなる。それに、相手のことを嫌えば、相手も必ず自分のことを嫌いますから、仕事がやりにくくなります。だから、意識的に、周囲の人の嫌なところを見ないようにしてきました。すると、段々と人を嫌うことがなくなり、それで仕事のやる気を失うことはなくなってきました」

また、腹が立ったり落ち込んだりしたときには、音楽で自分を奮い立たせていたそうだ。

「音楽の定番は、吉田拓郎の『ローリング30』と『知識』という曲。『ローリング30』は『今、厳しい道をいけば、絶対あとで良いことがある』という内容で、何万回も聴いているんじゃないかな。ちなみに初めて株主総会に社長として臨んだときは、事前に『ロッキーのテーマ』を聴きました」

こうした小さな「モチベーションを高める方法」をたくさん持っているかどうかは、意外と重要だと言う。

「生まれつきモチベーションが高い人なんていません。そう見える人でも、陰で、何らかの方法でモチベーションを高めているものです。その方法を意識的に確立していくと、モチベーションは安定すると思います」

宮原博昭(みやはら・ひろあき)〔株〕学研ホールディングス 代表取締役社長
1959年、広島県生まれ。82年、 防衛大学校卒業後、貿易会社に勤務。86年、㈱学習研究社入社。2003年、学研教室事業部長。07年、執行役員。09年、㈱学研ホールディングス 取締役(事業戦略、CSR推進担当)。10年、取締役(経営・事業戦略、CSR推進担当)等を経て、同年12月より現職。(『The 21 online』2017年10月号より)

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