なぜ、社員のやる気は上がらないのか?

社員のモチベーションが高い会社と低い会社というのは確かに存在する。その違いはいったいどこにあるのだろうか。ビジネスマン100人へのアンケートをもとに、社員のモチベーションを上げるための制度や職場作りについて、人事コンサルタントの西尾太氏にうかがった。
「曖昧な接し方」がモチベーションを下げる
社員のモチベーション管理に四苦八苦している上司や人事担当者は多い。はたして社員のやる気は何が原因で下がるのか。100人のビジネスマンを対象としたアンケートでは、「頑張っても評価されない」という回答が最多を占めた。
「部下を積極的に褒めることをしない、さらには悪いところも曖昧にしている日本的な企業文化が表われていますね。
管理職研修で『最近、部下を褒めましたか』と聞くと、10人に1人くらいは手を挙げる。ところが、その部下を対象にした研修で『最近、上司に褒められましたか』と質問すると挙手ゼロ、という残念なすれ違いがよく生じています。会社の『人事評価』も同じような傾向があります。まず、管理職は人事評価は“褒めるチャンス”と捉え直してください」
気が重くなる人事評価で「認められた!」という実感があると、それだけで社員のモチベーションは変わってくるはずだと西尾氏はアドバイスする。
「このとき、褒めるだけでなく至らない点も指摘することが大事です。曖昧なままにすると、部下は『自分はできている』と思い込み、成長するチャンスを逸してしまいます。マイナス面を自覚すれば次の目標にもつながり、目標があるから奮起でき、達成感も生まれるのです」
明快な人事評価はモチベーションや目標意識を引き出し、成果を高める好循環を生むのだ。
評価の次に多かったのが「給料が安い」という回答だ。
「まずハッキリさせておきたいのは、お金=モチベーションではないことです。給料が高くても社員のモチベーションが低い企業はありますし、給料が低くても社員がやる気に満ちている企業も知っています。
極端に言えば、楽しく働ける職場であったり、会社の理念に共感しているなどのモチベーションリソースがあれば、給料の額は気にならないのです。ディズニーランドを運営するオリエンタルランドや、働く人の満足度が高いスターバックスのように、企業理念で社員のやる気をうまく引き出している企業もあります。給料を上げれば社員は一時的に奮起しますが、1年もすれば給料増によるモチベーション効果は薄れていきます。長い目で見れば、企業理念や仕事の価値を部下に理解させるほうが効果的なのです」

「何もしない上司」はまさに日本の現代病
今回の調査では、上司の問題が4位と6位に入っており、モチベーションを高める役割を担うべき上司が足を引っ張っている可能性が浮き彫りになった。
「『上司の態度が人によって違う』のは、部下側の捉え方の問題かもしれないですね。上司は部下によって態度を変えなければならない場合があるからです。たとえば、新入社員には口うるさいくらい仕事の進め方や成果に介入するべきですが、ベテラン社員には、いちいち口出しせず、信頼して任せる姿勢が必要。
問題があるとしたら、明らかに好き嫌いで態度が変わる上司。この場合は、上司を監督・指導する立場にある、さらに上の上司が対処しなければならない問題です」
一方、「何もしない上司がたくさんいる」問題は“大企業あるある”だと西尾氏は指摘する。
「これには会社は危機感を持たなければなりません。管理職がやたらと多い会社は、高度成長期の古い組織モデルを脱却できていないケースが多いからです。
かつての日本企業の給料体系は『後払い型』でした。若手のうちは給料を抑え、教育費や住宅にお金のかかる40、50代で役職がついて給料がぐんと上がるように設計されていました。
ところが、今や日本人の平均年齢は約47歳。古い給料体系のままで55歳を給料のピークにしておけば、財政は厳しくなる一方です。
パフォーマンスと給料を一致させるのは、現代の企業の急務。『何もしない上司』にモチベーションが下がる部下を盛り立てるためにも、必要ない管理職は降格させるか、仕事のパフォーマンスを上げさせるかの2択で対処する必要があります」
「やる気ゼロ社員」への対処法とは?
そもそも、社員の本音として「やる気」はどのぐらいあるだろうか。回答からはモチベーションにかなりムラがあることが見えてきた。
「これはごく自然なことですね。やる気は、誰でも上がったり下がったりするのは当たり前です」
しかし、気になるのは、「やる気はほぼない」という絶望的な回答が2割近くあることだ。
「最近、管理職や人事担当者からよく聞かれるのは、成長意欲がない若手社員が増えているという声。ひと昔前は『やりたいことがわからない』という若手が多かったけれど、今は『やりたいことはない』という身もフタもない答えが多いそうです」
ただ、言葉どおりに受け止めるのは尚早。本人が自分のモチベーションに気づいてないことも多いのだという。
「たとえば、お客さんに『ありがとう』と言われた。そんなことで自分の仕事の価値に目覚めて、やりがいになっていくようなこともあります。
上司は部下を放置しないことです。進捗管理や指示、声かけなどまめに行ない、本人が成果を上げれば、達成を褒めたり、権限を広げたりと“承認”を与えていく。すると、社員自らモチベーションを上げる術を身につけていくことがあります」
西尾氏によれば、伸びる企業に共通するのは、社員の面倒見がいいことだという。モチベーション低下を個人の問題として片づけず、組織や上司のあり方も見直す必要がありそうだ。≪取材・構成:麻生泰子≫
西尾 太(にしお・ふとし)
人事コンサルタント/フォー・ノーツ[株]代表取締役社長
1965年、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、いすゞ自動車、リクルートを経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。2008年に独立。300社以上の人事制度構築、9,000人以上の採用・昇格面接、管理職研修などを行なう。著書に、『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)など。(『The 21 online』2017年10月号より)
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